On the road~青山繁晴の道すがらエッセイ~

2006-10-17 03:09:22

眠いって、恐ろしい





▼ゆうべ、イギリス大使館で、英国海軍の駐在武官らと話しているとき、じぶんの根深い疲れを感じないではいられなかった。
 相手が「青山さん、あのときの、あの話ね」と、じっくり(英語で)話しかけてくれるのだが、頭の芯がぼんやりしていて、思い出せない。

 そのうち、人柄のよさそうな、雰囲気の柔らかな男性と立ち話になった。
 困ったなぁ、見た顔だなぁと思いつつ、やっぱり頭がぼぉーっとしていて、思い出せない。
 ぼくに同行していた研究員が名刺交換をして、その名刺をちらりと見て、ぼくは、やれやれ、どなたなのか分かったよと安心して、こう言った。
「ところで、オーストラリア海軍は、北朝鮮の核実験に制裁を加えるための臨検に参加しますか?」

 その感じのよい男性は、え?なに?という顔になった。
 ぼくは、ぼんやり頭のまま、こう付け加えた。「参加しないという説もあるけど、オーストラリア海軍の伝統からして、きっと参加されるでしょう、ね?」

 すると男性は、ああーっという感じで、こう言った。
「わたしは、オーストラリアではなくて、オーストリアですね」
 あちゃちゃー。そうだった、このひとは、ヨーロッパの伝統豊かな国家オーストリア政府の高官だ。

 ぼくは「ごめんなさい、勘違いしました」とすぐさま頭を下げ、「オーストリアには海軍がないですもんね」と言った。
 彼は、あははと笑い、そうですねと言いながら、さぁーと去っていってしまった。
 オーストリアは、かつて大帝国としてイタリアの一部を領有していた時代には、誇り高い海軍を持っていた。
 いまは、海に面した領土がないから、空軍と陸軍、特殊部隊しかない。
 つまりぼくは、ユーモアでその場をしのごうとして、オーストリアの政府高官があんまり言われたくないことを言ったのかも知れない。
 重ねがさね、ごめんなさい…。


▼そして夜、帰宅して、きょう超多忙を縫って、会員へ配信した「東京コンフィデンシャル・レポート」で、数字の単位を間違えたことに気づいた。
 核実験をめぐって、爆弾量を「トン」と書くところを、なんと「キログラム」としてしまった。
 決してイージー・ミスが出ないように気を付けてきたから、こんな間違いは初めてだ。

 こりゃ、疲労と言うだけではなく、とにかく睡眠不足、あるいは睡眠ゼロがもう、これ以上は無理というところに来ているらしい。
 そう思いつつ、今夜ももう、未明3時をすぎたよ。

 あと4時間ほどで、テレビ朝日の「スーパーモーニング」に生出演するために、出発しなきゃいけない。
 1時間でも、ぐっと寝るように、ビールを、のも。
 夜明けまえのビール、なんか、愉しいね。



*写真は、黒部ダムへ続く、地中深くの「インクライン」です。
 すなわち、工事に従事するひとびとが犠牲者を出しながら掘り進めた、地中のケーブルカーのための縦穴です。
 このインクラインを完成させて、人を拒む秘境にようやく、多くの工事従事者を送り込み、物資を運んでいったのです。
 画面の左にみえる小さな白い点が、出口。下にみえる銀色の箱が、ケーブルカーです。

 この日本の電源を造るために、工事で命を落としたひとは、前にも書いたように171人にものぼりました。
 このひとびとのことを思えば、ぼくだって、身体も命も張らねばなりません。


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