On the road~青山繁晴の道すがらエッセイ~

2014-12-18 17:28:05

深く淡々と生きるだけ。

▼地球物理学をめぐる世界最大の学会AGU(アメリカ地球物理学連合)は、ぼくの「招待講演」が終わっても当然、まだまだ続いています。
 文字通り、世界各国から第一線の研究者・学者が集まっているので、さまざまな発表が独研(独立総合研究所)にとっては深いヒントになります。

 日本と大きな時差があり、日本は日本でぼくの関連の仕事が動いているので、ホテルと会場を行ったり来たりです。
 夜になって、暗い雨のなかを会場にふたたび向かう途中、信号待ちをしていたら、でかい(…間違いなく2メートル以上、120キロ級)アメリカ人男性が突然に、にじり寄ってきて「この学会に来てる奴らは、何を話してやがるんだい」と話しかけてきました。
 ぼくが胸からAGUの参加証を下げているのを見たのでしょうか。
 AGUはセキュリティが厳しくて、参加証がないと決して会場には入れません。

 男性は傘もささずに、頭からずぶ濡れです。(ただしアメリカ人は傘を差さないひとが珍しくはない)
 そして、いわばタメ口。
 かなり異常に近接して、のしかかってきます。
 この地味ブログのコメント欄と同じで、世の中にはさまざまなひとがいます。
 ネットという匿名の仮想空間と違って、現実のアメリカの街中には、こうした何でもない濡れたトレーナーのなかに実弾を常に装填した銃を持つ人もいます。
 だから知らぬ顔で躱(かわ)すのも選択肢で、一般的にはネット空間でも現実の街中でも、そのほうがいいと思います。ぼくも、ひとさまにはそれをお奨めします。

 ぼくは、両足と腰を定め、両腕はリラックスさせて、いざという時には戦う姿勢をとりながら、ふつうに眼を見て「地球と宇宙の物理学ですよ」と答えました(原文は英語)。学会のテーマをただ聞いているのかも知れないからです。シスコの街中に、学者・研究者が溢れていますからね。
 すると、ずぶ濡れの巨人は何度も聞き直してから、「その物理学ってやつの中では、特に何だよ」と聞くので、「資源、エネルギー、地球環境の変化…」と答えていると「あ、地球環境か。それで分かった」と叫んで、雨の中を去っていきました。

 この問答は実は、AGUの実態とぴたり合っているので、思わず、ぐすりとちいさく笑ってしまった。
 いまアメリカのみならず世界でいちばん研究費が出るのは地球環境の分野だから、AGUでも実際、その研究発表がこのところ圧倒的に多いのです。 
 学会とは言え、世を映します。

 そして中国人の参加の増えたこと。
 学会会場だけではなく、サンフランシスコの街も年々歳々、そうなるし、この美しい街の市長さんが中国系であることは少なからぬ人がご存じだと思います。
 AGUは会場の名物のひとつがNASAのブースです。
 ここでいつも、宇宙と地球の新年のカレンダーをくれるのですが、中国からの参加者がもの凄い数で突進するので、かつてと違って、今は手にするのが一苦労です。
 NASAの担当者も、昔と違って、ややとげとげしくなりました。そりゃ、たいへんだと思います。よく配布をやめないなと、逆に感心します。

 AGUは、その特徴のひとつとして、子供向けの教育プログラムをたくさん用意し、それぞれが実に充実しています。
 その教育プログラムを受けるのも、中国の子弟の多いこと。
 友だち同士で中国語を話していた子供が、アメリカ人の大人に向かい合った途端に、まったくネイティヴな英語を話すという光景が今やAGUでは、ごくふつうです。
 両親が中国から来て子供をアメリカで生んでいるのかな、そして理系に力を入れた教育を、子供にお金も掛けて受けさせているんだろうなと感じます。

 背景には、中国の世界戦略、なかでも対米戦略があると考えます。
 今はNASAのカレンダーでも、明日は違うでしょう。NASAも潤沢な資金が無いと運営できません。
 今はシスコの市長でも、明後日は違うでしょう。アメリカという国家には、「同盟国だ」と信じ切ることになっている日本からの情報も、シスコという一都市とはもちろん比較にならない量と質で、山のようにあります。


▼では日本はどうするか。
 焦燥感の溢れるコメントを、この地味ブログにもたくさん、たくさんいただきます。
 そうした書き込みは、ご自分のことを心配するより、まさしく子供たちのことを心配なさっているから共感します。

 ただ、焦ることはありません。
 まず、わたしたち日本国民の、足元の生き方を一緒に考えませんか。
 それが最新刊です。
 それが「ぼくらの真実」(扶桑社)です。書店で手にとっていただけるようになるまで、あとちょうど1週間です。
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