On the road~青山繁晴の道すがらエッセイ~

2020-10-10 18:34:05
この日時は本エントリーを書き始めた時間です
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ふと、勇気

 アンリ・マチスの「ダンス Ⅰ」をMoMA(ニューヨーク近代美術館)で初めて見たときのことを、ときどき、ふと思い出します。
 発表当時は、「何だ、このいい加減な絵は」と激しい非難を浴びたそうです。

 初見のとき、美術の本ではすでに何度も見ていました。
 有名な絵ですからね。
 しかし実物を見たとき、足が動かなくなってしまいました。

 こりゃ、批判をされるだろうなぁ。
 だって人物をろくに描いていないように、見えるもんね。
 しかし、たぶんマチスは、人物を突き抜けて、肉体が輪舞するということそのものの本質を逆に掴み出そうとしたんだろう。
 そして、そのことに、みごと正確に成功している。

 このように思いました。
 マチスという絵描きは、なんと勇気のあるひとだろうか。
 俺にこれができるだろうか。
 そう思って、美術館のショップで、コピーを買ってきました。
 原稿を書く部屋に飾りました。
 しかし、わずかしか伝わってきません。

 MoMAはもともと大好きな美術館です。
 だから、またニューヨークに行って本物を見るしかないなと思い、しまい込んでしまいました。

 いま、さまざまな現実に晒されながら、考えるのです。
 あの勇気がおのれの魂のどこかにちゃんとあるかどうか、それをこそ、いつも見ていたいな、と。






 
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