On the road~青山繁晴の道すがらエッセイ~

2009-01-26 05:13:29

冬のニューオーリンズ



 苦しい夜明けまえに、わけもなく落ち着き払って、思う。
 ぼくの最初と最後は、物書きだと。

 見えないものを書くのが、物書きだ。
 ぼくは、物語を紡ぐより、眼の前の現実とぼくなりに戦ってきた。
 そしてやがて、現実を物語に叩き込む。

 あらかた書いたら、水辺に椅子を置いて、しかし、滅多に座らない。
 水に逆らって泳ぎ、水に従って泳ぎ、はるか上流の山の水源まで泳ぎ、遠く下流の海の潮まで味わい、たまに、水辺の椅子に戻ってくる。

 あの南のニュー・オーリンズにも、場違いな冬は来る。
 その肌寒いミシシッピ河畔に濡れて立つように、今のぼくはある。

 そしてぼくは、夏の匂う日本の川辺に帰ってくる。
 あっさりと書く。らくに書く。夏の少年が、小川に魚とりの丸い網を入れるように、書く。







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