On the road~青山繁晴の道すがらエッセイ~

2011-12-06 21:35:25

苦闘千里




▼みなさん、いまサンフランシスコの夜中、というか夜明け前の午前3時49分です。
 毎年、このシーズンにここシスコで開かれる、資源エネルギー・環境・宇宙をめぐる世界最大の国際学会「AGU」(地球物理学連合)オータム・ミーティングに出席しています。
 独研(独立総合研究所)の戦う自然科学部長、青山千春博士と同道しています。

 彼女は、メタンハイドレート探索の国際特許(アメリカ、オーストラリア、中国、韓国、ロシア)と日本国内特許を持っていますから、AGUのスターのひとりですが、特許料は1円、1ドルも取っていません。
 独研の社長として、経営難にも耐えかねて「特許料を取るぐらいは、すべきではないか」と彼女に聞いたとき、「え? この特許は祖国のためですから。わたしの探索技術は簡便に使えるので、そのうち中国や韓国が『自分たちが開発した。日本は使うな』と言い出すことも、あり得ます。そのときに日本を護れるように特許をとっただけです」と答えたことは、忘れられないですね。
 ぼくは思わず、「おまえ、祖国なんて言葉をどこで聞いた」と言いました。
 彼女は純然たるサイエンティスト、自然科学者であり、ふだん、社会科学をめぐることについて、ほとんど何も言わないからです。
 そして、敗戦後の日本社会は祖国を語ることのない、世界でほぼ唯一の国ですから、ぼくはここ何年も「ぼくらの祖国」という新刊を出そうと、取り組んできました。

 二度にわたって、パソコンの中の、この原稿だけバックアップも含めて全文が消されていたり、これほど異常なまでに産みの苦しみがあった書も、初めてです。
 それがついに、最終の最終段階に入っています。


▼もう4週間ほどになるでしょうか、まともに布団、ベッドに入っていません。
 ふだんのウルトラ過密日程をすべて、すべて約束通りにこなしながら、また極めて理不尽な中傷誹謗、嫌がらせも受けながら、眠る時間はほぼ全部、この「ぼくらの祖国」の完成に捧げてきました。

 成田からシスコへの機中も、30分ほど仮眠しただけで、食事中も書きに書き続け、太平洋を越えて機が着陸する、ほんの少し前に全文脱稿しました。
 サンフランシスコ空港の到着ロビーで、ネットに繋いで、パソコンから出版元の扶桑社に送り込みました。

 そしてホテルにチェックインして、ベッドに何でもいいから横たわりたいという、ほんとうに強い誘惑を感じつつ、前日にシスコ入りしていた青山千春博士とともに、そのまま寝ないで学会に参加してきました。
 ことしは、日本の3.11の分析一色という感もある学会になっています。
 シスコはクリスマス前の独特の雰囲気で華やぎつつ、去年より明らかにホームレスのひとが増えています。


▼現在は、ホテルの部屋で、寝ないでゲラの直しに取り組んでいます。
 時間が無いのと、ぼくが海外に出てしまったために、いつもの印刷されたゲラではなく、ワード上での直しですが、かえってやり易かったりします。
 これをシスコ時間の今夜10時までに終わらせれば、ぼくとしては、すべて終了です。
 逆に、それが遅れれば、「一切の努力が水泡に帰して年内出版が不可能になる」と、扶桑社からはキョーハクの、いやいや、編集者が最後までぼくのお尻を押してくれる連絡が来ています。


▼しかし、明らかに山は越えました。
 12月27日から主な書店に並び始め、28日には全国の書店に回ります。

 初版の部数と定価もすでに決まりました。
 初版は1万2千部、前代未聞の出版不況のさなかとしては、少なくない。
 ただ…多くはありませんから、予約でかなり埋まるかも知れません。

 定価は、1575円(本体価格1500円)です。
 千円ぐらいの本にして、中高生にも、もっと買いやすい本にしたかったのですが、かなりページ数もたっぷりの本になりましたから、2年半前の「王道の日本、覇道の中国、火道の米国」(PHP)とまったく同じ定価になりました。そのまえの「日中の興亡」(PHP)とも同じです。
 財布に負担をかけて、心苦しいです。

 ちなみに、この「王道の日本…」も「日中の興亡」もまだ、売れ続けていて、版を重ねています。
 すべての読者のかたがたに、あらためて深い感謝を捧げます。

 さぁ、ゲラ直しに戻ります。
 写真は、その卓上です。
 地元テレビからは、ぼくの好きなサンタナのライブがずっと流れていて、いい感じです。

 窓の向こうに、寝静まるシスコの街並み、その遙か向こうは、ぼくらの祖国です。


  • 前の記事へ
  • 記事の一覧へ
  • 次の記事へ
  • ページのトップへ
  • ページのトップへ