On the road~青山繁晴の道すがらエッセイ~

2023-01-23 00:25:34
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おのれの身体に聴け



▼実質的に17日間におよぶ強行軍の旅の最終段階・・・それまでの7か国の核セキュリティ当局者との議論を全部、踏まえて、ニューヨークから往復6時間をかけ、高度な武装防御を固めている原子力発電所の現場を訪れました。
 写真は、その現場で、武装防御の専門家である担当官が、撮影と公開を許してくれました。

 ただし、これは武器などではありません。このブログでは詳しい説明を控えますが、いわば、災害、事故から攻撃にまで備える多用途の頑丈な装備です。
 この建屋は、写真では分かりませんが、砲撃などにも耐えられる構造です。

▼こうしたところに案内してくれたり、さらには写真の撮影と公開を許してくれたのは、訪問前から決まっていたのでは全くありません。
 訪問し、たがいのバックグラウンドを語りあい、そして「なぜ7か国を回り、なぜこの原発に来たか、それはロシア軍が原発を軍事攻撃するという想定外の非道に抗して、国民と国家の自主的なエネルギー源を護るためであること」を話し、そして原発の奥深くの現場を回りながら、極めて専門性の高い会話と議論を長時間、重ねていくうちに、アメリカ側の複数の担当官と、日本から来たこちらとの間に、なんともいえない信頼感、共感が高まって突然、予定外に案内してくれたのです。

 これが、現場訪問のいちばん肝心なところです。

▼いつも「現場に行きましょう」と言います。
 その通り、どなたのどの人生にとっても、ザ・ゲンバが大切だと考えます。
 そのうえで、これが職務、任務となると、それだけでは済まないのです。

 たとえば政務官、副大臣、大臣になると基本的にすべて、役所の行政官・官僚が、質問項目も、想定問答も、もちろん行き先も何もかも、用意します。
 そういうゲンバ訪問では、何も新しいものは、双方に生まれません。良くて、これまでのおさらいです。

 相手国の現場に入るときは、相手国が民主主義国家であれば、日本とその国の双方の国益になる訪問で無ければならないというのが、ぼくのささやかな信念のひとつです。
 原子力の平和利用の安全性を伸ばし、暴力やテロ、さらには軍事攻撃に耐える力を持つことにおいて、双方に役立つ訪問で無いといけません。
 教えてください、見せてください、では駄目です。
 視察に来ました、でも駄目です。
 専門性と、人間性を通じ合わせて、双方が前へ進むための訪問です。

▼今回の海外出張、ふたつの海外出張が連続した旅(米国ハワイ州から夜に帰国して翌朝から欧州と米国本土へ)、これは17日間の全日について費用が自弁であり、ぞっとするぐらい重い負担です。
 クレジットカードの決裁をはじめ支払いはこれから、という面もありますから、心境は決して軽くないです。

 しかし、この犠牲がもたらす自由、自主独立性、それは国益と国民益にとって、まことに、かけがえのないものです。
 官僚に想定問答まで用意してもらう旅とは、根本的に、非常に深い部分で異なります。

▼ひとつ前のエントリー「その長き旅に悔いなし」も「その1」で止まっていますから、「その2」を含め、少しづつ、この無条件の公開情報のブログでも書いていくつもりです。
( ただしもちろん、機密性のある情報は一切、書くことができません。公開ブログですから、たとえばロシア、中国、北朝鮮の工作員もいくらでも見ることができます )

▼とりあえず今夜は、「帰国しました」と、みなさんへ報告します。
 最後のフライトは、ニューヨークから羽田まで、いまロシア軍の民間機撃墜を警戒せねばならないので、極端な大回りです。
 15時間かかりました。
 それでも夕方6時ごろには、都内の自宅に着いたのに、いま深夜1時すぎ、なんと7時間以上も休まずに自宅で働いていて、荷物の整理すら全く終わっていません。
 しかし明日の朝からもう、通常国会の開幕なので、最低限のことをしておかないと、やっと帰ってきた自分のベッドにも横になれませぬ。

▼今回の『17日強行軍』で、個人的にいちばん驚いたことを書きます。
 本来、このブログは長年続けている個人ブログで、いくらでも個人的なことを書いて良いのです。
 個人的なことを書きやがって、と苦情を言う人も居るのですが、それは、ほんとうはおかしな話です。

 驚いたこと、それは、おのれの体力です。

 深刻なトンデモ日程でした。
 日程そのものの烈しさに加えて、自分の仕事の幅、どれくらい沢山の分野に職務が及んでいるかを実感せざるを得ませんでした。
 どこの国に入っても必ず、朝からホテルを出て職務に就き、今回の出張の主目的であるPP ( Physical Protection / 核防護 ) の日程をこなし、夜にようやくホテルに帰ってくると、別分野の仕事が、電話やメールによる日本や各国との連絡と議論を含めて、始まります。

 今回、ホテル選びにぼくは関与していません。
 なかなか辛いホテルも多かったです。
 例外的によかったのは、パリのホテルで、ベッドも風呂もよさげで、しかも1泊のみのホテルが多い今回のなかで、2泊ありました。
 それなのについに、ベッドには全く横にならず、風呂もお湯を全部入れている時間が無くて、3分の1ぐらい入れて数分、身体を横にして湯の温かみを味わうだけだったのには、おのれでも、ショックだったです。

 こういう旅なのに、身体はまるで平気だったのです。
 顔がむくんだりも全くせずに、われながらスッキリしていて、連携して同行した独立総合研究所のヘイワース美奈研究員も、何度もびっくりしていました。

▼ぼくはふだん、日本で、朝に熱い風呂に入って血を巡らせてようやく、日常的に烈しい日程に耐えています。
 ところが、このブログでありのままに記したように、ロンドンでは1泊だけのホテルに湯船がありませんでした。
 そこで、逆療法として、全身に冷水を浴びて、その冷温から回復しようとするためか、かーっと短時間で血が巡って、任務に向かうことができました。

 このときも、スッキリ顔でヘイワース美奈研究員をちょい、びっくりさせました。

▼実は、もうひとつ、驚いたことがあるんです。
 それは、帰りのフライトです。
 こんな、いくら何でも個人的に過ぎる話で申し訳ないのですが、しきりに、トイレに行くのです。もちろん他の乗客に迷惑にならないように、充分に工夫しています。
 しかしトイレがなぜか、多い。それもすべて、快適なお通じです。

 家に帰ってからなら、分かりますよね。
 しかし、あの狭い、あまり行きたくない機内のトイレです。

 なぜかな・・・と思っていて、ふと、わかりました。
 身体が自然に、モードを変えようとしているのです。
 長い海外から、日本国へ戻る前に、身体のいちばん基本的なモードを変える、日本モードに戻そうとしている、そう感じました。
 もちろん、なにか医学的根拠があるわけじゃ無いです。
 しかし、活発な新陳代謝が常にぼくを支えていること、それから、環境の変化にごく自然に、無意識に即応していく体質であることを、あらためて実感しました。

▼今回ほどホテルで寝る時間が無かった海外出張も、あまり記憶にありません。
 そのために、いま背負っている分野のいくつかを、もう降ろすべきでは無いのかとも思いました。
 しかし、この機内のちょっとしたフシギ現象のおかげで、「いや、おのれの身体に聴け。大丈夫だよ」と分かりました。

▼ただし、作家としての原稿は今回、ただの1行も書けませんでした。
 東京コンフィデンシャル・レポート ( TCR ) のレポートは2本、書いて、会員へ配信しました。
 しかし次の小説、あるいは次のノンフィクション作品、それが1行も書けなかったのは、海外主張をこれほど繰り返してきたなかで、初めてのことでした。

 また、渾身の一作である「夜想交叉路」が突然、もう読まれなくなった気配です。
 おそらく、いつも読んでくださるかたがたがもう、一巡したのでしょう。

 そのことによる、ガッカリ感は大きいです。
 ほんとうは、ぼくを支えているのは、身体の集中力、代謝の良さに加えて、作家であることです。
 羽田に帰り着いたとき、ANAのかたが「硫黄島の本を読みました」と、その感動を語ってくださいました。
 こゝろから励まされました。

 同時に、すくなくとも、いったんは筆を折ることも、考えねばならないかなと思い始めています。
 書きたい小説も、書きたいノンフィクションも沢山あるんですけどね。

 今回、米国ハワイ州の真珠湾、米軍のインド太平洋軍司令部から一気に、気温差50度以上の北欧へ入っていくときの最初のフライト、また最後のフライト、いずれも最長のフライトが日本のANAであったことに救われました。

 このエアラインは、たった2機のヘリコプターの会社から、民間の自主努力で、ここまで来た民間航空です。
 政治献金をどこからも1円も受け取りませんし、パーティ券も一切、売りませんし、後援会も作りませんから、どこの企業とも特定の利害関係は皆無です。
 しかし、こういう自助努力の良き結果が日本にあることは、みんなで共有して良い事実だと考えます。

 日本も、官頼みではなく、民の国として、この困難な世紀を生きていくべきです。
 そのこともまた、諸国であらためて強く分かった長期の海外出張でもありました。

 核セキュリティという、専門性の分野に特化した出張でしたが、こういう集中度の高い旅ほど、異分野の事どももどんどん見えてくるのが、異国の旅の不思議さなのです。



 

 
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