On the road~青山繁晴の道すがらエッセイ~

2023-06-28 23:41:34
この日時は本エントリーを書き始めた時間です
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思いがけず、敬愛する哲人に拝礼することができました



▼「憲法改正がなぜ必要かを国民に知っていただくために」という趣旨で、自由民主党から時折、全国へ講演に派遣されます。「時折」と言うより、もっと頻度が高いかも知れません。
 週末が潰れることになりますが、意義の深いことですから絶対に断らず、全国どこへでも、仮に原稿が溜まっていても、必ず引き受けて出かけていきます。
 先週の土曜日、6月24日には佐賀市へ行きました。

 会場は、佐賀藩の藩主でありました鍋島公をご祭神とする佐嘉神社です。
 神社での講演は、ふだんに増して身が引き締まります。

 東京から長駆、佐嘉神社へ向かう途上で、同行していた出口 ( いでぐち ) 太・公設政策秘書が、その神社の近くの龍雲寺に、山本常朝さんの墓所があることを見つけてくれたのです。

 山本常朝さんは、ご存じの通り、あの哲学書「葉隠」 ( はがくれ ) を口述なさった佐賀藩士です。
「武士道といふは 死ぬことと 見つけたり」の永遠のひとことで、世に知られています。



▼江戸期には禁書とされた葉隠を、初めて手に取ったのは18歳の時でした。
 しかし最初は、「まるでサラリーマンのハウツー本のような書だ。なぜこれが禁書なのか」と戸惑いました。
 ぼくは解説書を読まないので、ときどき手に取っては考えるうちに、前述の「武士道といふは 死ぬことと 見つけたり」の言葉に、江戸時代の武士の常識では絶対に省いてはならない言葉が、省かれていることに気づきました。

 ・・・何度も講演で話し、著作で述べてきましたから、ここでそれ以上を話すことはしません。
 ただ、それを契機に、この言葉は「死ね」と言っているのではなく、「生きよ」と言っていることを知りました。

 20歳の頃、友だちに囲まれて生きていながら、暮夜、胸の奥で死も考えるほどに苦しみました。
 大学で会う友だちも、ぼく自身も、大学に行くことができている日本人でした。
 しかし同じ日本人で、大学に行きたくてもいけない人がいます。
 おのれは、この環境に甘えていいのか、それとも大学を辞めて働くべきなのか、大学を辞めて働けば矛盾は解決するのか、解決するはずもないじゃないか、いやそれは自分に都合のよい言い訳だ・・・と苦しむうちに、思考はどんどんと、底へ降りていき、昏い闇の奥へ進んでいき、ついには、存在の根源を問うに至りました。

 そのぼくを救ったのは、西洋の哲人、キェルケゴールの「死に至る病」という書でした。
 そして、その後のぼくを支えてきたひとつは、日本の哲人、山本常朝さんの「葉隠」だったのです。



▼山本常朝さんのお墓の背後には、武士の時代が終わってから初めて「葉隠」の一部を刊行した中村郁一さんの建てた記念碑があります。
 立派な碑ですよね。
 ところが、上の2枚の写真を見てください。
 常朝さんのお墓は、それを含む2列の墓群、すなわち山本家の墓のなかでも、もっとも小さなひとつです。
 それもまさしく、山本常朝さんでありました。



▼墓参のあと、命の一滴まで捧げる気持ちで、講演をしました。
 ぼくの付けた演題は「魂からの国造りをふたたび」です。



▼この講演は、舞台上の左、岩田和親代議士が党に要請して、実現しました。
 岩田さんは今、経産部会長。そうです、経産部会長代理のぼくのいわば「上司」です。
 田植えシーズンにもかかわらず沢山集まってくださったみなさんと一緒に、岩田部会長は熱心に耳を傾けてくださいました。
 いつものように延長して、質問にお答えしたあと、岩田さん、佐賀の隣の長崎県・五島列島出身の出口秘書と3人で、ほんとうにわずかな時間でしたが、岩田さんの生家の近くで地酒をいただくことができました。

▼このエントリーで触れた、魂の歩みを土台として編んだのが「夜想交叉路」という物語です。
 百年を見渡すこの物語には、僭越ながら、「葉隠」のごとく日本の根幹も、盛り込んだつもりです。
 よろしければ、紀伊國屋のネット書店であるここから、実物を手に取ってみてください。

 紀伊國屋書店と何の利害関係もありません。知り合いもゼロです。
 しかし実物の書店の出店、でみせとしてのネット書店であるために、紹介したくなります。
 本屋さんは、日本のどこでも、それから世界のどこでも、特別な場所、生き残って欲しい場所です。
 ぼくが国会議員になってからは、ぼくのすべての書が日本の本屋さんから冷たく扱われています。非常に、冷たく・・・です。
 それでも、本屋さんへの気持ちは変わりませぬ。
 どんな偏見を受けようとも、ひとりの物書きであることと、護る会 ( 日本の尊厳と国益を護る会 ) を創建した国会議員のひとりであることを両立させていきます。






 
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