On the road~青山繁晴の道すがらエッセイ~

2006-05-21 21:14:57

必死の時間のなかで、言いそこ間違えたり、のんきに忘れたり





▼いま5月21日の日曜午後、テレビ朝日系「サンデー・スクランブル」の生出演から帰ってきたばかりだ。
 もとはコメントだけの出演予定だったけど、ナマのスタジオ出演に変更になった。
 きのうの土曜は、大阪で「ぶったま」(関西テレビ)に生出演した。

 いずれも報道番組のカテゴリーには入らない情報番組だけど、拉致の問題などについては、シリアスに誠実に、つまり過度にセンセーショナルだったり面白おかしくだけには決してならないように扱ってくれているから、出演の要請があれば、なるべく受けるようにしている。

 テレ朝も関テレも、テレビ局のひとの話では、放送内容が真剣な議論になればなるほど視聴率も高くなるそうだ。
 凄いなぁ、と思う。
 情報番組とか報道番組とか、視聴者のかたは、そんなことにこだわらず、真剣に考えたいことがらは真剣な話を聞きたいといつも望んでいるということだから。


▼この2つの番組で、ぼくが視聴者、国民に伝えたのは、極めて簡潔に言えば、次のような趣旨だ。

「北朝鮮が日朝の秘密折衝で、拉致問題は終わったという姿勢を変え、新たに2人の拉致被害者を帰国させるという、事実上の打診を行っている」
「ただ、それには日本が呑むことのできない条件が付いている」

「その条件とは、『アメリカが去年9月から遂行している金融制裁(北朝鮮が偽ドル札、偽円札を真札に換え、麻薬・覚醒剤、偽タバコなどで上げた収益も正当な収益に見せかけるというマネー・ロンダリング、資金清浄を行っている銀行口座を、アメリカが封鎖する)を止めるか、緩和するように、日本がアメリカに働きかけてくれ、それも単に働きかけるだけではなくアメリカから何らかの確約を引き出せ、また、この2人の帰国で拉致問題は完全に終わりだ』という条件となっている」
「日本は、これを受け容れていない」

「そして、わたし個人は、1人でも帰国を諦めたら、見捨てたら、日本はもはや国民国家と言えないという立場から、新たな帰国をこのような条件付きで打診してきた北朝鮮を許すべきではないと考えている。拉致の被害者は、政府認定でも16人、救う会の認定では23人、特定失踪者問題調査会は100名以上、わたしが知る治安当局の本音は、救う会に近い数字、いずれにせよ、すでに帰国した被害者5人、プラスこの新しい2人の計7人という数字とは、ほど遠いのだ」

「だから、わたし個人の意見は揺るがないが、胸のなかでは血が流れる。その新たな2人が誰なのか、少なくともわたしは非力にして知らないが、ご本人の帰国がかない、家族もついに失われた肉親と会うことができる、その可能性を思うと、『いや、わたしは反対ですから』と言うだけでは、済まない」

「だからこそ、この、あくまで水面下の動きを、今の時点で、視聴者、国民に伝えたい。国民が、決めねばならないときが来るかも知れないからだ」

 実際の番組では、これに加えて、ぼくがどのようにこの動きを知ったのかについて、情報源が絶対に、永遠に分からないように徹底的に注意しながら述べ、、北朝鮮はなぜ、こうした姿勢転換を日朝の秘密折衝で匂わせるようになったのか、その経緯について述べ、スウェーデンのパーション首相がどんな役割を果たしているか、について述べ、朝鮮総連と民団の和解、テポドン2号の発射実験の準備といった直近の動きとはどう関わるか…などなどについても述べている。


▼番組で、ぼくが発言できる時間は、びっくりするほど短い。
 たとえば、きょうの「サンデー・スクランブル」では、拉致問題を取りあげるコーナーが始まり、まずは元北朝鮮工作員の安明進さんらが語るVTRの放送が終わって、スタジオでぼくのナマの発言を求められるようになると間もなく、「1分30秒」という残り時間が記された紙が、AD(アシスタント・ディレクター)からぼくやMC(メイン・キャスター、司会者)に示された。

 それを見ながら、ほんの一言、二言を述べると、もうその紙が「30秒」という紙に差し替えられ、あっという間に、フロア・ディレクターが両手で大きなバツ印を作って、『時間切れ』というサインが強く示された。

 これが特別なケースじゃなくて、どの番組でも当然のこととして、ある。


▼だから意を尽くして述べることは、まさしく簡単じゃない。

 時間がこうして極端に制限されるなかでも、ぼくが強調しているのは、ひとつには、「拉致被害者の家族のかたもこうしたテレビ番組をご覧になっているから、いい加減なことは申せない」ということだ。

 もうひとつは、「新たな2人の帰国打診がもしも、この先に単なる水面下の秘められた動きにとどまらず表面化した場合を考えると、わたし個人の意見としては、これまでのような条件付きでは反対だが、2人の被害者が帰ってくるかも知れないことは被害者ご本人にとっても、家族にとってもあまりに重いことであり、もしも表面化した場合には、国民みんなが自分の問題として、どうか、考えてください」ということだ。


▼ただ、これだけ時間が限られていると、慌てるわけじゃないけど、小さな間違いはたまに出てしまう。
 5月20日土曜日の関西テレビ「ぶったま」で、「北朝鮮が新たな2人の帰国を実質的に打診」ということを関係者から聞いた時期を「先週」と述べた。
 これは、言い間違えた。
「先々週」が正しかった。

 テレビを通じて世に発信する以上は、いかなる事情があっても、拉致問題のような重大な問題について、どんな小さな間違いがあってもいけない。

 厳しく、自省しています。


▼さて、この日曜日、「サンデー・スクランブル」の生出演が終わったあと、週1回、とても大切にしている『鍛錬』をキャンセルした。
 スポーツ・ジムで、バーベルやダンベルを挙げ、プールで泳いで鍛えて、それからトレーナーにボディ・ケア(スポーツマッサージ)を施してもらうという、今のぼくを支える時間の一つだ。

 だけども、きょうは迷った末に、キャンセルした。
 かつてダイビングで鼓膜を破った右耳が、疲労がたまっていることの影響で何かに感染して痛むことも、ある。
 だけども、それならプールだけをやめればいいことだ。

 いま、新しいノンフィクションの本の仕上げにかかっている。
 きのうの土曜日、関西テレビの「ぶったま」に生出演したあと、関西であえて自由な時間を過ごしたから、なにかを犠牲にしないと、きっと本は完成しない。
 そう考えて、ジムの予定をすべてキャンセルした。

 そういうわけで今、必死の思いで、原稿を書いています。
 株式会社組織のシンクタンク経営から講義・講演、テレビ・ラジオ、そしてノンフィクション、フィクション両サイドの物書き。
 これだけいろんな仕事を同時進行させていると、時間がない、時間が極端に制限されるのは、テレビ出演中だけのことじゃない。
 なかでも、毎日、毎日いちばん時間が制限されてしまうのは、原稿を書く時間だ。

 だけども、ぼくはあくまでも原点が物書きであり、原点というだけじゃなく現職の作家なのだから、人生の時間制限と戦って、戦って、書くしかない。

 とはいえ、週に1度のボディ・ケアがなかったので、うーむ、首筋がおもーい。


※写真は、「ぶったま」の本番まえです。

 まだMCのおふたり(大平サブローさんと魚住りえさん)もスタジオに入っていない段階で、フロアディレクター(立っている人)とぼくらが打ち合わせをしている…ようにみえますが、実は、この元気なフロアディレクターが昨年末にタクシーのなかに財布を忘れて大変でした、という話をしてるのです。

 生放送の本番直前の緊張のなか、こんな話になったのは、ぼくがスタジオに持って入っているモバイル・パソコンをいつもスタジオに置き忘れて帰ってしまって、という余談をしたから、であります。
 フロアディレクターも、レギュラー出演者のかた(ぼくの向かって右の方に座っている、関西の有名コメンテイター・山健さん)も、「そのパソコン、きっと機密情報が入っているでしょう?それを、のんきに忘れるんですか」と呆れ、ぼくは「はい、実はタクシーのなかにも、しょっちゅう忘れてきてしまって」と、本番前にそれこそ、のんきな雑談が続いたのでありました。




  • 前の記事へ
  • 記事の一覧へ
  • 次の記事へ
  • ページのトップへ
  • ページのトップへ