On the road~青山繁晴の道すがらエッセイ~

2006-05-19 00:08:47

われら、同時代人





▼いま2006年、平成18年の5月18日木曜日の夜、22時57分。
 きょうの日も、まもなく去っていき、永遠に帰らない。
 生きとし生ける者、みな同じだ。

 ぼくらの国では、世代、というものがよく強調される。
「自分が30歳代であることに、こだわって、世代というものにこだわって、小説を書く」と強調している作家もいる。

 ぼくは、それが文学者の精神だとは思えない。
 世代など、つまらない。
 世代の違い?
 そんなものに、こだわるのではなくて、われらはみな、世代の違いを超えて同じ時代を生きる同時代人だ。


▼頭で考えたことじゃない。

 たとえば遠く津軽で講演したときのこと、最初は、腕を組んで怖い、硬い顔で眼をつぶり、こんな若造の話なんか聞けるか、という感じだった高齢のかたが、何人も何人も、まずは腕を解き、次にはうっすらと眼を開き、やがて柔らかな笑顔を見せて、眼がすっきりと開いて、輝く。
 そんな光景を、ぼくのつたない講演でも、見た。

 津軽だけじゃない。
 高齢化が、大都市よりもずっと早く進んでいる小さな町村で講演するとき、いくども経験してきた。

 おなじ講演で、若い人は最初から首筋と背中を伸ばし、期待で眼が輝いている。
 その姿も大好きだし、高齢のひとの眼が、生き生きと輝くのも、大好きだ。

 ぼくの講演に来てくれる若い人には、十代もいる。二十代はもちろん、たくさんいる。
 高齢のひとには、七十代はかなり多いし、八十代もふつうにいらっしゃる。
 年の差が60歳以上、最高では70歳前後も開いている、こうした世代の違う聴衆に接するたび、ぼくの胸の奥には「われら同時代人、一緒に、おなじ世の祖国と世界を、ささやかなりに非力になりに、変えていきましょう」という思いが湧きあがる。


▼きょうの朝は、成果なく終わった徹夜が明けて、雨のなかを都内の講演会場へ。
 朝9時から12時までの3時間、一気に語るハードな講演の予定になっている。

 会場に向かうタクシーは、道を何度、説明しても呑み込んでくれず、間違った道へ入ろうとして急激に進路を変えたり、ストレスが溜まる。
 ほんとうは東京のタクシーの運転手さんなら誰でも知っているはずの、有名な行き先なのに、ていねいに説明しても、分かったふりで道順をろくに呑み込まないまま、不安定な運転をする。

 講演が始まるまでに、どうしても編集者に送っておきたい原稿があるので、不規則に揺れるタクシーのなかでモバイル・パソコンを使って原稿を、懸命に書いている。
 だから、プロの運転手さん、ふつうのプロとしての仕事をして欲しいなぁ。


▼ストレス・タクシーはようやく、講演会場に着き、高い料金を払い、車を降りる。
 独研(独立総合研究所)の研究員3人と、講演の主催者のかたがた4人ほどが迎えてくれる。
 情けないストレス・タクシーへの怒りを何とか頭の隅に追いやって、迎えに感謝し、一緒に控え室へ向かう。

 控え室に入るとすぐにモバイル・パソコンを開き、原稿の仕上げにかかる。
 講演が始まるまで、あと10分もない。

 講演の主催者の側から、首脳陣が控え室に挨拶にみえる。
 ありがたいことに、ぼくが原稿の執筆と送稿をどれほど急いでいるかを、ぼくが何も言わないのに理解され、さらりと挨拶だけで、ぼくに執筆を続けさせてくれた。

 それでも、もう無理だ、間に合わない、タクシーのなかで道を説明するのに忙しくて執筆が進まなかったのが誤算だったなぁ、もう無理だなぁと思いつつ、必死で書く。

 そして講演が始まる1分半まえに、奇跡的に書き終わり、講演の30秒まえに送稿し終わった。
 うわー、よかった。
 ストレス・タクシーへの怒りは、もう忘れている。


▼すぐに、主催者側のかたがた、それに独研の研究員3人の大勢で、講演会場に向かう。
 会場に入り、たくさん集まってくださった聴衆をみると、ぼくの心身に自然な集中力が、無理なく一気に高まる。

 講演は、12時15分ぐらいまで、3時間15分続いた。
 途中、聴衆のかたがたが一度、頭を整理できるように、10分ほどの休憩をとった。
 だけども、ぼくは集中心が途切れないように、椅子にも座らず、講演中と同じく立ったままでいる。
 休憩でも席を離れない少数の聴衆のために、マイクを切って、肩の凝らない余談を話す。
 これも愉しい。


▼徹夜明けの影響はありありとあって、言い間違いを繰り返す。
 それでも、聴衆に伝えたいことを、ある程度は言えたかなぁと思いつつ、講演を終えて、主催者側の首脳陣との昼食会へ。

 ぼくにとっては、講演の続きのようなもので、主催者のかたがたの的確な質問に、考え考え、答えていく。
 昼食は、コックさんのプロらしい心づくしが感じられて、うれしかった。
 講演の主催者は、この超高層ビルの最上階にある特別室を用意してくださった。間近に立つ東京タワーの展望室が、目線より下にみえている。小雨に煙る東京が、晴れた日とはまた違う、印象深い都市の光景をみせてくれた。

 昼食会場から、防衛庁へ。
 信頼する幹部と、きもちの通う議論を、すこし交わした。


▼防衛庁から独研へ戻り、ネクタイだけはせめて外して、秘書室や研究本部と打ち合わせていると、午後4時まえ、秘書室長が「TVタックルのクルーがいらっしゃいました」

 え、午後5時からと思っていた。
 ちょい大急ぎでネクタイを締め直し、クルーに社長室に入ってもらい、いつものコメント撮りを受ける。

 今週のテーマは、北朝鮮と拉致問題に絞られていた。
 いつも1分とか2分とか、それぐらいしか放送はされないが、1時間たっぷり、インタビューに答える。
 ぼくのコメントを直接、引用するだけではなく、番組中に流れるVTRの流れや方向性、さらには具体的内容を決めるために、番組のディレクターがインタビューしていることが分かっているので、気を抜かずに、ぼくなりに懸命に答える。

 コメント撮りが終わると、急いで、耳鼻科へ。
 いま極端に疲労が蓄積しているために、ぼくの自慢の免疫力がぐんと低下してしまって、プールで右耳がなにかに感染したらしい。
 痛みが、強い。
 耳たぶが固くこわばり、顔の右側全体が重苦しく、実は講演中も、昼食会でも、防衛庁でも、右耳はよく聞こえなかった。

 耳鼻科の治療は、ほんと、ちょっと苦しいですね。
 鼻と耳の奥深くに細い棒を入れて、薬剤を吹きつけたり、通りをよくしたり。

 ぼくは記者時代の夏休みに、海外で、ダイバーのライセンスを取得した。
 一度だけ、水中でエア抜きに失敗して、その一度の失敗で、右耳の鼓膜を破った。
 ふだんは、ほとんど影響がない。右耳も、よく聞こえる。
 だけども、あまりに疲労すると、こうやって感染したり、いろいろな辛いことが起きる。
 つまりは右耳は、ぼくのファイナル・アラームなのかなぁ。


▼耳鼻科から独研へ戻ると、会社に泊まり込み態勢で奮闘している研究員、それにぼくをほんとうに支えてくれている秘書たちが、今夜も出前か何かで食事を取ろうとしているのが気になって、みんなも、ぼくもたいへんに忙しいなかではあったけど、独研の近くのタイ料理屋へ、ささやかながら、ご馳走しに出発!

 店では、秘書室長が素早く予約してくれていた席に座り、みんなで生ビールを飲み、アジアの麺を楽しむ。
 酒飲みのぼくは、耳鼻科医にアルコールを禁じられているけど生ビールをとって、ひとくち、ふたくち呑む。
 一発で耳が痛み、こりゃ、さすがに無理だと諦めて、東京消防庁から独研に出向中の研究員「ヒデ」にジョッキを譲る。

 そして、みんなで独研に戻り、仕事を再開。
 秘書室は、ぼくの複雑そのものの日程の調整を続け、研究本部(社会科学部と自然科学部)の研究員たちは、研究プロジェクトと、それから「国民保護」をめぐる自治体との協議の準備に取り組む。
 ぼくにはシンクタンク社長としての経営課題が、文字通りに山積している。
 無借金で、どこからも一切援助を受けず、シンクタンクを経営するのも、ああー、簡単じゃないし、作家であること、講演・講義をすること、テレビ・ラジオに関わること、それらの同時進行と両立は、まぁなかなかのものだ。

 ぼくは実は、先ほどから、まるでロボットの充電が切れるように、元気を失っている。
 ちょっとだけでも、仮眠しようかなぁ。
 仮眠で元気を取り戻して、会員へ配信する「東京コンフィデンシャル・レポート」を完成度高く、仕上げたい。


▼今週は、明日もまた、大阪へ入り、土曜日に関西テレビの「ぶったま」に生出演する。
 いつもは飛行機だけど、耳鼻科ドクターに禁じられたので、新幹線の往復だ。
 その次の週は、久しぶりに「朝まで生テレビ」に参加する。

 疲れ切った顔で出演するのは、あまり嬉しくないけど、タレントじゃないのだから見かけはともあれ、中身では、ぼくなりに一生懸命に、奮闘したい。


※写真は、関西テレビの報道番組「ANCHOR」の本番直前に、報道局の一隅で、手書きのフリップを書いているところです。
 書き終わると、ぼくを担当してくれているスタッフの「よっちゃん」に渡します。

 これは今週5月17日水曜日の放送で、「ANCHOR」のなかのコーナー「青山のニュースDEズバリ!」で視聴者のみなさんにお見せしたフリップです。
 フリップには、「常識を変えよう」と書きました。

 反日を強める韓国と中国と付きあうためには、ぼくら日本国民の思い込みというか常識を、変えて、臨みましょうという話をしました。




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