On the road~青山繁晴の道すがらエッセイ~

2006-09-13 02:57:16

ショック




▼あの9.11の惨劇から5周年を迎えた2006年9月11日の月曜、ぼくは、どうしていたか。
 実力部隊を持つ政府機関と、公共交通機関が連携してひらいた『テロを防ぐための連絡会議』に招かれていた。

 会議では、9.11のテロのさなかにニューヨーク市警(NYPD)の警察官が撮影した未公表のスライドが大きく映され、NYPDに出向していた日本の警察官が、救助のようすを語った。

 その言葉のうち、「ワールドトレードセンター・ビルの100階の高さから飛び降りる人は、下から見上げていると、誰もみな、自殺のために飛び降りるのではなく、助かりたいと思って飛び降りているとしか見えませんでした」、「その高さから飛び降りた人間がどうなるか、分かりますか。こっぱみじんです」という言葉が胸に深く響いた。

 そして、日本政府の生物化学テロの専門家と、東京メトロ(旧営団地下鉄)でサリン事件に遭遇した保安責任者がそれぞれ短く、講演した。

 そのあとに、ぼくが1時間20分ほど、講演した。
 この連絡会議で、いちばん長い講演として設定されていた。

 ぼくは力を尽くして、語りかけ、問いかけた。
 アメリカのイラク戦争によってむしろテロの危険は増大し、なかでも日本の交通機関こそが襲われる可能性が水面下で高まっていることを明らかにしていった。
 話すうちに、5年前のあの時刻が近づいてくる。

 新幹線、地下鉄、山手線、都バス、はとバスなどなど、とにかく首都の公共交通機関すべてから集まった、数多い担当者たちに、「政府任せにせず、自分の頭で考えよう。ほんとうの脅威は何か、ほんとうの備えは何か」と訴えた。

 会場には、数多くの警察官もいた。
 警察官には「いざテロの現場にぶつかったら、上司の指示を待つだけではなく、やはり自分の頭で考えて行動しよう。そのためには何を備えて、鍛える必要があるのか」と語りかけた。

 そして、具体的に「何が真の脅威か」、「何が真の備えか」を明かしていった。それは、残念ながら、ここには記せない。


▼このたいせつな会議で、ぼくがショックを受けた重大な事実がある。

 それは、ある利用客の極めて多い公共交通機関から来た保安責任者の講演で分かった。
 その講演では、駅や電車の現場にいる社員たちに渡している「基本動作を呑み込むためのカード」が示された。
 その誠実な努力は評価したい。

 ところが、肝心のカードのなかに、致命的とも言うべき間違いがある。

 プロのテロリストなら決してやらない行動が、「テロリストはこうします」と書かれて列挙されていた。
 駅や電車の係員が、このカードを努力して覚え込めば、むしろ決して、爆弾をはじめとする不審物を発見できないだろう。

 ぼくは講演まえに、控え室で、信頼する政府高官に聞いた。
「カードに見過ごせない間違いがあります。講演で、指摘していいですか」
 この高官は「いや…、やはり公共交通機関の保安責任者としてのメンツもあるでしょうから…」と答えた。

 ぼくはすこし考え、「講演の流れをみながら、講演のなかで決めます」と応えた。
 そして講演の後半で、腹を決めて、この重大な間違いをはっきりと指摘し、「サリン事件というテロから11年を経て、まだこのような基本的な間違いがある。公共交通機関だけではなく、政府機関も、その間違いに気づいていない。わたしたち(独立総合研究所)のように、テロ対策のノウハウを実務を通じて蓄積しているところと連携が必要不可欠だと、実は痛感しました」と率直に語った。

 講演のあと、ぼくが政府高官に「あれで良かったですね」と語りかけると、高官は頷いた。
 頷いたあとに、「さて、どれくらい(公共交通機関から)、反応がありますかね」とつぶやいた。


▼その翌日の9月12日には、関西テレビ・報道部の依頼で、映画の試写会に出かけた。
 映画「プラトーン」や「JFK」で有名なオリバー・ストーン監督が9.11テロを描いた「ワールドトレードセンター」の試写会だ。
 映画のでき映えは素晴らしかった。
 しかし同時に、「ムスリム(イスラーム教徒)にとっては挑戦的な映画としか思えないだろう」と感じた。

 たとえば、キリストのみしか神として認めない色合いが、くっきりとある。
 オリバー・ストーン監督にしては、かなり地味な、抑制された造りになっているのだが、その実、強烈な、一方的なメッセージを奥に秘めている。
 ムスリムならば、それに気づくひとが多いだろう。


▼いまは9月13日水曜の、未明3時まえだ。
 きょうは、新宿でこのオリバー・ストーン監督に英語でインタビューし、そのまま大阪へ飛んで、関西テレビの報道番組「ANCHOR」の「青山のニュースDEズバリ!」のコーナーで、このインタビュー映像を流す。
 そして、日本はテロに襲われるのか、襲われるとしたら、わたしたちは何をすればいいのかについて、語る予定だ。



 写真は、その関テレの報道部で、ある日の本番まえ。
(後ろ姿で立っているのが、ぼくです)。
 この奥に、広いスタジオがあります。なんとなく、好きな、やりやすいスタジオです。

 
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