On the road~青山繁晴の道すがらエッセイ~

2008-03-09 06:36:29

ことしもドーハへ





▼いま、カタール航空の機内にいます。
 成田からは中東カタールへの直行便がないので、羽田からまず関西国際空港に飛び、そこからカタールの首都ドーハへの直行便に乗りました。

 ドーハで開かれる国際戦略会議に今年もまた、カタール政府の公式招待で参加します。
 独研(独立総合研究所)の秘書室長Sが同行しています。

 関空を飛び立って6時間15分が過ぎました。ドーハまではあと6時間弱、ちょうど中間あたりです。
 まっくらな窓の外の遙か遠くに、くすんだ黄金色で都市の灯りが暗闇のなかに浮かんでみえます。
 どこか中央アジアの都市でしょうか。
 宇宙の暗黒のなかに浮かぶ、孤独な惑星都市のようにもみえる、不思議な光景です。


▼去年のこの国際戦略会議では、ドーハから、関西テレビの報道番組「アンカー」のために生中継しました。
 ことしは、それはありません。

 その代わり、来週12日の水曜日に、関西国際空港へ帰国し、そのまま空港の一室からスタジオとつないで、ナマで番組に参加します。
 ほんとうは、現地からの生中継より、こっちのほうがキツイ、キツイ。
 現地も時差があり、中東の地でのややこしい交渉などもあるけど、日本で飛行機を降りてそのまま中継、というほうが、ちと辛いですね。

 海外出張のささやかな楽しみの、上空で呑むお酒も呑めなくなるし、狭い機中でぼろぼろになって原稿を書いていた、そのまんまで出演(参加)ですからね。
 嫌だったけど、「ナマで青山さんの話を聞きたい視聴者が多いんです」という番組スタッフの言葉で、視聴者がそうであれば、とOKしました。


▼水曜「アンカー」のなかの「青山のニュースDEズバリ」のコーナーも、はや、その来週12日の水曜日で97回目です。
 100回が潮時、やめ時かなぁと、このごろ時々、考えなくもありません。
 ふと気がつくと、胸のうちで、おのれにそう呟いていることがある。

 正直、1回1回が全力投球で、情報源への神経がぴーんと張りつめる取材や、時間がたいへんにかかるロケなど、事前の(膨大になる一方の)労力を含めて、負担が想像以上に大きい。
 たいした話もできていないのにね。失敗作ばかりなのにね。


▼ただ、近畿大学経済学部で、国際関係論を講義している学生たちと呑んでいるときに、ちらりと聞くと、やめないでほしいという意見がびっくりするほど強かったから、それには、たいへんに励まされています。
 視聴者のかたがたに、とても真摯に視て、聴いてくれているひとが少なくないことも、強烈な支えです。

 一死一命。
 いっし、いちみょう。
 このごろ胸に去来する言葉です。
 もともと、こういう言葉があるかどうかは、知りません。
 ごく自然に、浮かんできました。
 ひとつの命に、ひとつの死があるだけ。
 非力のまま、やるだけやって、死ねばよい。

 それはテレビ番組でもなんでも、そうなのでしょう。

 窓の外は、まだ真っ暗です。
 時差の関係で、飛行機が近づくにつれ、目的地カタールでは夜が深くなる。
 朝と昼と夜がめぐる丸い地球の上を、まるで、ただただ夜の中へ突き進んでいくかのように飛ぶ。
 ぼくの人生に似ているような。
 一度切りの人生に似ているような。


▽絵は、カタールの国旗です。
 なんだか新撰組の羽織かなんかに共通するような感じですよね。

 白色は平和、そしてエンジ色は、その平和に至るまでカタールの歴史で流された戦いの血を表すとのこと。
 過去の血だから、赤じゃなくエンジ色だと考えれば、なかなかリアルですが、実際は、最初は赤だったのが中東の強い日差しで変色して、そのまま定まってしまったという説が有力らしいです。

 ぼくがかつて、慶應義塾大学文学部を中退して、早稲田大学政経学部に一から入り直したとき、大隈講堂で開かれた運動部の入学歓迎式で、応援団がエンジの旗を掲げて「これは大隈公の血の色である」と叫んだのを、このカタール国旗にまつわる話を聞いて思い出しました。

 スクールカラーの紺と赤をじょうずに使う慶応から、同じスクールカラーでもエンジは血の色だと絶叫する早稲田に移って、こりゃ、えらいところに来たかなと思ったけど、とにかく早稲田は無事に卒業したのでありました。

 ちなみに「青山さんは、中退した慶応と、卒業した早稲田のどちらが好きなのですか」と、けっこう聞かれます。
 慶応を中退したのは慶応が問題なのじゃなく、文学部を去ろうとして転部制度が慶応になく(今はひょっとしたらあるのかも知れませんが当時はなかった)、早稲田も中途入学制度があったのは夜学の社会科学部だけだったから、慶大文学部を中退して、早大政経学部を受験し直しただけのことです。
 だから慶応も早稲田も、正直、好きですね。

 早慶戦はどっちを応援するのですか、とも聞かれるのですが、ぼくはなにせ、ひとりで早慶戦をやっていたようなもの。
 そりゃ、あんた、どっちかを片寄って応援なんてできません。 

 ついでに独研(独立総合研究所)の社員は慶応が多いけど、これもつまりは偶然です。
 卒業大学がどこかで優劣をつけたりしません。
 世に貢献するのは、まさか大学の名前じゃない。ただ実力があるだけ。おのれの実力に謙虚な信頼を置くひとは、ぜひ、来たれ。





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