On the road~青山繁晴の道すがらエッセイ~

2009-08-23 12:23:25

邂逅が始まりました




▼新刊「王道の日本、覇道の中国、火道の米国」(PHP)のサイン会が、きのう8月22日の土曜に、大阪・梅田のジュンク堂大阪本店でひらかれました。
 東京(8月27日)、京都(9月1日)と続くサイン会の始まりです。
 東京では初めて、トークショーとセットになっています。


▼きのうの大阪会場には、びっくりするぐらい沢山のかたが来られました。
 それでも、おひとりおひとりとの時間を、考えていたより短くしたり、おろそかにしたりはできません。
 列をつくって待たれるかたがたの辛抱や疲れとのぎりぎりの兼ね合いを深く考えつつ、できる限りのことを尽くしたい。

 そのためには、まず落款を押すときに、おひとりおひとりに、ぼくの全身全霊を込めて気を贈ること、そして読者のお名前を丁寧に真ん中に大書すること(一般的に言えば為書きですが、為書きのように端っこに書くのではなく、真ん中に大書する)、またぼくなりの座右の銘のひとことも、ありったけの心を込めて書くこと。
 それを、いつものように、全員のかたがたに実行しました。

 書店は、来場のかたがたに整理券を発行してくれます。
 その整理券はグループに分けてあって、グループごとに店内放送で呼び出しをしてくれるから、お待ちになるかたも、ただ列を作るのではなく、店内で本を見て歩いたりはできますから、すこしは、ぼくも気が楽になりそうで…いや、正直、内心は楽にはなりませんでした。
 だって高齢のかたも、ちいさな子ども連れのかたも、いらっしゃいますからねー。
 待つのは、たいへんだと思います。

 しかし、これはやはり邂逅(かいこう)です。
 本という素晴らしきものを通じて、不肖ぼくと読者が出逢うのですが、ただの出逢いよりもっと意義の深い邂逅に思えます。
 また、サインをするぼくにとっては、きのうで言えば170回ほど繰り返されるサインですが、サインを受けとられる読者にとっては、生涯でただ一度のことかも知れません。
 だから、簡素化するわけには、やはり、いかないのです。


▼予定では、午後2時の開始でした。
 関西テレビの情報番組「ぶったま」への参加(生出演)を終わって、そのあとまず、ネットテレビの「たかじんのそこまでやって委員会」の2回目の収録に臨みました。
 前回の初回のアップを、たくさんのひとが視てくれて反響も大きかったそうで、この2回目の収録となりました。
 今回のテーマは「総選挙」です。
 間近に迫る総選挙を正面から考えようという試みですから、すぐにアップされると思います。

 それを終えて、もうすぐにサイン会場へ向かいました。
 まだ時間は早すぎるけど、参加される読者のなかにもきっと、早々と会場入りされるひとがいる。
 そう思うと、早く向かわずにいられません。

 ジュンク堂大阪本店は初めてでした。すばらしく大きな、きれいな、店員さんの陣容も充実している書店です。
 サイン会場へ続くエスカレーターの踊り場で、同行の独研(独立総合研究所)秘書 M と「でっかい本屋さんだよね―」などと話していたら、やっぱり参加者がぼくを見つけて近寄ってこられます。
 そこでプレ・サイン会?の握手や会話や、それからお手紙を受けとったりを少ししているうちに、PHPの担当者が2人、ひとりは京都から、ひとりは東京から大汗とともに登場、ジュンク堂大阪本店の幹部や、社会科学の書籍担当スタッフもいらっしゃって、みんなで控え室へ。

 控え室ではまず、ジュンク堂大阪本店に並べるための本に、何冊かなぁ、かなりサインしました。
 そしてサンドイッチをつまんでいると、書店幹部の O さんが「もうずいぶんと並んでらっしゃるんですが、時間より早く始めてよいでしょうか」

 もっちろん!
 お待たせするより、そのほうが絶対いい。
 即、控え室を出発です。

 サイン会が初体験の秘書 M は緊張の顔つきです。東京海洋大学で船に乗っていた M は、水泳部出身の体育会でもあり、女子ながらそんじょそこらの男より頼りになるやつ。
 ぼくの秘書になってから、初体験の出来事が多くて、そのたびに大喜びしたり、はしゃいだり、緊張したり。
 新婚さんですが、旦那さまはきっと、この明るい人柄をみて結婚しようと思ったのだろうナァと書店ビルのエレベーターのなかで、ぼくはあらためてふと、考える。

 そして会場に近づくと、なるほど!
 もう、静かなる熱気が充ち満ちています。
 ぼくは、ひとりもいない会場しか頭に浮かばなかったから、胸のうちで両手を合わせて、みなさんに深く感謝しました。

 お待たせしました、どうぞっ。
 そう大きな声を出して、テーブルへひとりづつをお招きします。
 それからぼくは着席し、まずは整理券に記されたお名前を読みあげます。

 そして…「深く淡く生きる」
 ぼくの仕事と思索の生活のなかから自然に生まれてきた、この言葉を、右上に記します。日付も入れます。
 それから、真ん中に読者のお名前を、大書。

 次に左下に、ぼくの名を小さめに記します。
 読者のお名前を書き終われば、間違う心配がなくなるので、ぼくの名をサインしながら、ひとことふたこと読者に語りかけます。

 読者が、ちいさなお子たちを連れていたり、それから、お母さまとか旦那さまとか奥さまとか兄弟とか友だちとか、サイン会に一緒に来られなかった人のことを話されれば、そのお名前も聞いて、そのお名前も記します。

 そして落款を手に取り、インクを付けて、もう一度、お名前を呼びます。読み方を正確に確認して、呼びます。間違えば、違う人に気が行ってしまう感じがするからです。
 名前を書いたかた全員分の気を込めます。
 だから家族連れには、時間がさらに長くなります。

 ほんとうに全身全霊の気の力を使うので、思わず自然に声が出ます。

 それからテーブルから立って、両手でそのサイン本を差し出し、ぼくなりの思いとともに堅く握手をし、希望されるかたには一緒に写真を撮ります。
 写真が無事に撮れていることを、読者に確認していただくと、残念ながらお別れです。

 そして、お待たせしたことをほんとうに申し訳なく思いながら、ふたたび「お待たせしましたっ。どうぞ」と次のかたのお顔をみます。
 みんな、いいお顔です。


▼予定は2時間でした。
 ひとりひとりと向かいあっているぼくには、全体で何時間が経っているのかよく分かりません。

 すると秘書 M が「社長、休憩を取ります」
 え?
 読者を待たせたまま休憩なんか取れないよ。
 M は「書店のスタッフもみんな疲れてますから」
 そりゃ、そうだ。
 そこでスタッフにはいったん、休憩に入ってもらって、ぼくはお待ちの読者のなかへ入っていきました。
 そこで、みなさんと少し話していると、眼の前の若い女性が涙されていることにも気づきました。
 中学生から、高校生、大学生、若いひと、働き盛り、高齢のかた。
 ひとりで遠くから来られたかた、カップル、ご夫婦、親子、兄弟、一家総出。
 近所から自転車で来られたひとから、岐阜県大垣市から、あるいはカナダのバンクーバー(ちなみにアルペン・スキーヤーとしてのぼくはウィスラー・スキーエリアへの拠点都市バンクーバーが好きなのです)から来られた母と子。

 ほんとうは、みなさんひとりひとりと別れ難かったのですよ。


▼ぼくが読者のなかをウロウロするので、スタッフもろくに休めないようだし、まもなく再開!
 最後のおひとりにお渡しして、秘書 M に時間を聞くと、ちょうど4時間が経過していました。

 控え室に戻ると、サイン会に並ばれていながら時間切れで帰られたかたの整理券と、短い手紙のメモがあり、そのなかには、長いお付き合いのエネルギー企業幹部の名もあって、びっくり。
 それらのかたにも、サインし、気を込めて落款を押し、これで大阪会場は終了。

 ぼくのためにエライ目に遭わせてしまったスタッフのかたがた、ジュンク堂大阪本店のみなさん、PHPのおふたり、そして M 、ありがとうございました、こころから。
 ジュンク堂大阪本店のみなさん、ひとりひとりと握手をして、PHPのおふたりとも握手を交わして、空港へのタクシーに乗ったら、どおーと疲れが来ました…が、大丈夫です。


▼実は、この書き込みは、岩手県の大船渡線というローカル電車に揺られながら書いています。
 きのう土曜は、関テレの「ぶったま」の生放送、ネットTV「たかじんのそこまでやって委員会」収録、そしてサイン会4時間と、例によって盛りだくさんの日程から帰京しましたが、明けたきょう日曜は、早朝に東京を出て、東北の漁港、気仙沼に向かっています。
 日本は海の邦、水産業を盛り返すことも、われら独研の願いのひとつです。
 その願いにかかわる出張です。


▼「書店に買いに行ったけど、売り切れだった」というEメールを良くいただくようになりました。
 急速に増えています。

 だけど増刷は版元のPHPが決めることで、ぼくにはどうにもなりません。
 担当編集者の努力で、すぐに5千部の増刷になり、合計で1万5千部が発刊されています。
 かつての感覚からすれば、とても少ない部数だけど、この厳しい出版不況のなかでは、PHPは頑張ってくれていると思います。

 サイン会のあったジュンク堂大阪本店では、発刊してすぐは、ぼくたちが待機していたエスカレーターの踊り場の大きなディスプレイに、一面にたっぷりと並べていて、それがとっくに全部、売り切れたそうです。

 だけども、たとえば大阪・伊丹空港のJAL側の搭乗口17番の前にある書店コーナーでは、たくさん平積みになったまま売れずにいる感じです。
 場所によって、なぜかずいぶん違うのかも知れません。
「探してるけどないナァ」というかたは、できれば、こういう「穴場」に行ってみてください。

 それから前述しましたように、ジュンク堂大阪本店にはサイン本もかなり置いてあります。
 よろしければ、見てみてください。


▼ぼくがサイン会で、ざっと340回か350回か、立ったり座ったりするのをみて、「骨折した腰は大丈夫ですか」と聞いてくださったかたがた。
 ありがとう、だいじょうぶダァ。



  • 前の記事へ
  • 記事の一覧へ
  • 次の記事へ
  • ページのトップへ
  • ページのトップへ