On the road~青山繁晴の道すがらエッセイ~

2009-12-15 20:31:27

最後に決めるのは誰か




▼天皇陛下のご会見をめぐる変事について、関西テレビの報道番組「アンカー」(火曜アンカー)で日本時間12月15日火曜夕刻に放送された内容は、先ほど動画で拝見しました。

 国際学会出席のために滞在しているサンフランシスコは、いま15日の午前1時45分。明日も早朝から学会に出向くことを考えれば、正直、もうベッドに入りたい。

 余談ながら、アメリカのホテルのベッドは、世界でいちばん柔らかくて、これが苦手なひとも多いでしょうが、実はぼくはずいぶんとリラックスできるのです。
 国際会議や学会で参加者がアメリカの同じホテルに泊まっていると、日本人からもヨーロッパ人からもオーストラリア人からも中国や韓国、台湾のアジア人からも「こんなに柔らかいベッドで寝ると腰が痛くなる」と顔をしかめる声をよく聞きますが、ぼくはなぜか腰が痛くならなくて、むしろよく伸びる。ことし2月にスキージャンプで墜落して、腰の骨を5本折った後遺症もほとんど出ません。
 このリラックス・ベッドが、狭いホテルの部屋で、机のすぐ横にあると、ふだんに増して「とにもかくにも、もう眠りたいや」という欲に、こころも体も突っつかれます。

 でもね、ひとつ前の書き込みで約束しましたから、ぼくが関テレの電話取材で話した全体の要旨を、この未明のうちにアップしておきたいと思います。


▼その前にまず、「アンカー」のメインキャスターのヤマヒロさんが、この火曜と、明日の水曜アンカーをお休みされている件ですが、火曜アンカーで豊田キャスターがおっしゃった通り、身内の不幸による忌引きです。

 ネットで憶測も広まっているようですから、ぼくの責任で具体的に申しておきますと、実のお父さまが亡くなられました。
 老衰で亡くなられたという知らせを、ぼくもこのシスコでいただきましたが、いくつになられていてもお父さまは、誰にとっても、世界にたったひとりです。ヤマヒロさんは今、深い悲しみの中にいらっしゃると拝察します。
 ぼくも弔電をお送りし、そのなかで、お父さまはヤマヒロさんを誇りに思われて生きられたと拝察いたしますと、申しました。


▼さて、ぼくの話は、50秒ほどの放送という時間的制約のなかで、ディレクターが意を尽くしてよく編集してくれたと思います。プロの仕事です。
 それで充分とも言えるのですが、今回は事柄が事柄だけに、ぼくの話の全体をあえてここにアップします。

 ぼくが関テレのディレクターの問いに答える形で、電話を通じて話したのは5分ほどです。したがって放送されたのは、その5分(ごぶん)の1以下ということになります。
 テレビの取材というのは、たとえば(この頃ほとんど出ませんが)TVタックルという番組では、2時間以上も話して、放送されるのは30秒から、どんなに長くても1分ぐらいだったりします。つまり120分(ひゃくにじゅうぶん)の1以下しか放送されないのが、TVタックルに限らず、どの番組でもむしろ当たり前だったりします。
 だから、今回の関テレが短すぎるということは、テレビの世界の常識としては、ありません。(ただし視聴者は、そのような慣行を持つ地上波テレビだからこそ離れつつあるという問題は、別にあります)



【JST(日本標準時間)の2009年12月15日火曜の夕方4時から、PST(アメリカ太平洋標準時間)14日月曜の深夜11時から、関西テレビの報道番組「アンカー」のディレクターから電話を受け、質問に答える形で収録した全体内容の要旨は以下の通りです。ぼくの記憶に基づく要旨なので、細かい言い回しはそのままではない可能性がありますが、それはご容赦ください。あくまでも要旨です】

Q(ディレクター)天皇陛下の特例会見の問題を今、どのように受け止めていますか?

A(青山繁晴)むしろもっとも冷静な考えとして、鳩山総理と小沢民主党幹事長が辞任することが必要だと考えています。
 理由があります。
 鳩山総理は、中国の習近平副主席をこのような混乱状態でお迎えしたのが問題だという趣旨を記者団におっしゃっていますが、それは違います。
 中国も、天皇陛下との会見を急(きゅう)すぎる要請でゴリ押ししたという責任があるからです。
 いちばん問題なのは、天皇陛下をめぐって、このような異様な事態になっていることであって、わたしたちの民主主義というのは天皇皇后両陛下の存在とともに歩む、オリジナルな民主主義であることがいちばん大事(だいじ)なのですから、天皇陛下と中国副主席との会見が終わったからと言って問題の終わりではなく、今後の日本のあり方を国際社会に、中国を含めた国際社会にフェアに示すためには、鳩山総理と小沢民主党幹事長がお辞めになることが、もっとも適切な解決方法だと考えています。

 それから小沢さんの記者会見には、ふたつの大きな間違いがあります。
ひとつは、羽毛田宮内庁長官に辞任を求めることによって、民主党政権が掲げる「脱官僚、政治主導」の話に問題をすり替えていることです。
 羽毛田長官は、天皇陛下のご健康のようすを身近に知っているから急すぎる会見の設定に反対したのであって、政治家で、羽毛田さん以上に陛下のご体調を知る人はいないのですから、これは「脱官僚」という話ではありません。
 国民が期待する「脱官僚」は、政治家が天皇陛下のご体調を勝手に判断するということであるはずもありません。
 この点は鳩山総理も、「役所仕事でいいのか」と発言されていますが、天皇陛下のご健康を実状に合わせて配慮することを役所仕事と言うのならば、総理も小沢さんと同じ間違いを犯しています。
 もうひとつは、小沢さんのおっしゃった憲法のことなんですが、小沢さんは記者会見で「天皇の国事行為は内閣の助言と承認によって行うのだから」と強調しましたが、憲法で定める(天皇陛下の)国事行為のなかには、外国の要人と会うことは含まれておりません。
 外国人と面会することに関する国事行為は、大使と公使の接受に限られています。副主席は大使でも公使でもありません。
 そもそも小沢さんの憲法解釈、あるいは憲法の見方が間違っているということであって、憲法を都合よく変えて引用してはいけません。

Q 小沢さんの記者会見の様子は(サンフランシスコにいながら)どのように知りましたか。

A 一問一答の起こしと、それから動画を、それぞれEメールでもらって、全体を知りました。

Q 小沢さんを古くから知る青山さんとして、どのように感じましたか。

A 小沢さんがあのように高圧的になるのは、いちばん自信のないときであって、実は深刻に危機を感じているのだろうなと感じました。
 小沢さんはこの記者会見が致命傷になると、考えています。

Q とはいえ、鳩山さんも辞めようとしないだろうし、民主党政権の今後に与える影響については、どうですか。

A 小沢さんが強硬路線で突っぱねる作戦に出ていて、鳩山さんもそれに付き従っているのが実態ですが、当面はそれで乗り切るように見えても、問題の根は深いですから、国民がむしろ小沢さん、鳩山さんの強硬姿勢によって、それをよく考えるようになり、おふたりの去就がいずれ国民的議論になることもあり得ると考えます。


※ぼくの実際の発言からは、まだ抜けているところがあると思いますが、思い出せる範囲内では、こんな具合です。
 中国にもゴリ押しの責任があるという箇所などを除けば、関テレのディレクターは、ぼくの真意が伝わるよう、電話収録から生放送のオンエアまで半時間ほどしかないぎりぎりの短い時間に、よくまとめてくれたと思います。

 ぼくから関テレのディレクターには「編集権はあくまでも、そちらにありますが、総理と与党幹事長の辞任が必要だと明言したことは、カットしないでください」とお願いしました。
 関テレにとって、もっとも影響とリスクの大きい箇所だと思いますが、放送ではきちんと最後に入れてくれていましたね。
 ぼくへのリスクを心配してくださるかたも、このごろ特に多いですが、いつもお話ししている通りの思いです。 武士道といふは 死ぬことと 見つけたり(葉隠)


▼内閣総理大臣と与党幹事長が辞めるべきかどうかは、最後は、国民ひとりひとりが決めることです。
 なぜなら、国民国家たる、われら日本国の国民は、主権者であり、主権者であるからには、この祖国の唯一の最終責任者だからです。

 また、いつも申しているように、現在の国民にはEメールという強力な手段もあります。
 これも何度か申しましたが、政治家も役所も実は驚くほどに国民からのEメールを気にして、よく読んでいます。だからこそEメールの受け取りアドレスを公開しているケースが多いのです。
 返信がなくてもあっても、無力感に囚われる必要は、ゆめ、ありませぬ。



 みなさまへ
 青山繁晴 拝 
 サンフランシスコ時間 2009年、平成21年12月15日火曜午前3時40分


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