On the road~青山繁晴の道すがらエッセイ~

2011-07-16 11:53:19

生と死と青い空について


                                      (パリ市内で、2分だけ休憩)


▼いまパリにいます。
 フランスの時刻で、7月16日土曜日の未明3時半を過ぎたところ。パリ滞在の3日目です。
 今朝、次の訪問地の英国エディンバラに向かいます。
 スコットランドの「首都」エディンバラも、パリも、ヨーロッパのなかでいちばん好きな街に入ります。

 2月17日に大腸癌を手術してから初めての海外出張だと思います。
 大腸癌手術のあと入院先で、術後5日目にして仕事を再開し、6日目で外出許可を副院長から得て、社有車を自分で運転し講演先に向かい、講演して、7日目で、やはり外出許可のもと関西テレビの東京支社からの生中継で関テレの報道番組「スーパーニュース・アンカー」に復帰し、8日目で再び社有車を自分で運転して都内で講演し、そのまま帰宅、つまり退院…という半年前のことを今、パリの夜明け前に思い出しました。

 それがさすがに、いくらか無理だったのか、やがて激しい腸閉塞を起こし、死に直面しつつ、アンカーの視聴者のかたがたをはじめ、みんなに約束した講演などは完遂してから入院し、死の淵から甦り、急回復してその入院中に再び、副院長から外泊許可を得て講演先の兵庫県姫路市に向かう新幹線のなかで、3月11日午後2時46分の東日本大震災発生を迎え、新幹線が非常停車したのでした。

 大腸癌そのものは、切ってみればまったくの初期であることが判明し、転移もあるはずもなく命の危険は実質なかったけれど、そのまえに発症していた重症肺炎で一度、死にかけて、それから腸閉塞で死にかけて、二度、死に向かいあってから、考えてみれば、わずかな月日しか経っていません。

 もはや誰も、「よく海外出張に行けますね」と言わないほど、どうやら元気にはなったようです。
 ただし、きょうパリを重い荷物を持って歩きながら実感したのは、ほんらいの強靱な(自分で言ってしまって何ですが、ありのままに強靱な)体力は、まだまだ戻っていないということでした。
 世界のどこでも飛ぶように速く歩いていたのに、今はのろのろ。
 ぼくはパリで食べるエスカルゴが大好きなのですが、おのれも、エスカルゴ(かたつむり)になってしまいました。
 ふひ。


▼以前から、海外に出ると何気なく、ごく自然に魂から、生と死を考えます。
 ふだんにない刺激があるせいなのかなぁ。
 今度も、命がさりげなく甦って、さらさらと、小川の水のように息づく感があります。

 パリでは、仕事の合間を縫って、好きな画家クロード・モネの旧宅と庭を訪ねました。
 パリから高速道路で1時間とすこしのノルマンディ地方ジヴェルニーにあります。
 ここでは、何年間も未完で抱えている小説(2作品。短編と長編)の執筆について、大きなヒントが、いくつかありました。
 パリに向かう機中から、予感していました。

 エディンバラでは、福島原子力災害もあって世界の耳目が集まる「国際ガス・ハイドレート学会」に出席します。
 独研(独立総合研究所)からは青山千春博士(自然科学部長)と研究員も参加します。


▼ところで、インターネットテレビの「青山繁晴.TV」に、ぼくが参加した富士スピードウエイでの走行会(小レース)の模様がアップされました。

 うわー。
 自分の走りを大画面で見たのは初めてです。

 今回も練習の時間がどう工夫しても全く取れなくて(ふだんの過密日程に加えて、震災後ですから)、完全に練習ゼロで参加という、名門サーキットにも失礼な状態でした。
 しかも違うクラスのマシーン(車)が一緒に走るという小レースで、ぼくのロータスは参加マシーンの中では、他車と比較にならないほどのパワー不足。
「こりゃ最下位は間違いないや」と覚悟していたのですが、意外にも、レース後半でハイパワー・マシーンを2台を抜いて、ベストラップも、F1レーサーがこの富士スピードウェイで記録した平均的なベストラップから50秒ほどの遅れにとどまって、へぇ-。

 その抜いた直後の実況が、このネットテレビでうまく、とらえられていて、おのれのコーナリングで発生するタイヤの音や、マシーンの挙動、自分のコースどり、いずれもとても参考になりました。
 睡眠と休息なくサーキットに入っているから、まぶたは、ぱんぱんに腫れているし、もうぼろぼろの顔と姿で、声すらも疲れ果てていて、それは視てくださるかたがたに、ちと、失礼です。すみません…。
 サーキットに居る、走るための時間、サーキットへの往復のための時間、それを確保するために、前夜はいつも以上にハードに働いて、仕事を進めておかないといけないのです。


▼レースは、生きることそのものです。
 モータースポーツは必ず、ハイスピードで戦われますから、常に、生と死が同居しています。
 生と死が自然に一緒にあり、そして、謙虚と大胆がともにあります。
 それが、ぼくにとって生きることです。

 海外出張先でネットに繋いで、そのレースシーンを見ると、ふだんの海外出張とはまた別の、なにやら感慨がありました。


▼ネットテレビの「青山繁晴.TV」では、このようなレースシーンは、いわばおまけです。
 中心は、安全保障、外交、政治、経済、社会などなどへの問題提起です。
(まったく同じ名称で、ぼくと独研へのまことにアンフェアなサイトへも導こうとするサイトがありますが、それは無関係です)

 ずっと無料で維持してきましたが、このレースも撮影してくれたプロのカメラマンの費用や、編集とアップの費用などをはじめ多額のコストを大赤字で維持しているのも、もはやあまりにも無理、無茶になりました。
 スポンサーを募ることも検討し、スポンサーを確約してくれるところも複数、見つけましたが、完全なる自律、独立の独立総合研究所が発信するネットテレビに、特定のスポンサーが付くことはやはり、やめようという結論になりました。

 ちょうど、独研は新しく「インディペンデント・クラブ」(IDC)を立ち上げましたから、その会員(有料)になったかたは、フリーで見られることとし、それ以外のかたは、クレジット決済で見ていただける準備をしています。(クレジット決済の設定には、意外なほど時間がかかります。もうすこし待ってください)
「自分は債務整理をしてカードを持っていないから、現金でもOKにしてくれ」という書き込みもいただいていますが、人数の足りない独研・総務部でそれが可能かどうか、まだ分かりません。総務には伝えます。

「青山繁晴.TV」のなかで、いま有料化されるのは、新着動画のうち黄色い「i(アイ)」マークの入った動画だけです。
 他の動画は、これまでどおり、今のところどなたでも無料で見られます。(維持費を見ながら、今後、独研の総務部が検討していきます)


▼独研の社員や、独研を応援してくれるカメラマンたちや、みんなが努力して「青山繁晴.TV」という、ささやかな発信を続けられるように一生懸命です。
「これからも自分は無料で見たいのに、結局はカネなのか」という趣旨のEメールが来て、正直、すこし哀しかったですね。
 カネ?
 ぼくらは、利益を出していません。
 それに、一体どうやって、これからも大赤字で維持できるでしょうか。利潤ではなく、最低限のコスト・実費だけは捻出しないと、続けられるはずはありません。
 独研は、どこからも補助を受けないからこそ独研です。自律、独立であるために食い扶持はみずからフェアに稼ぐからこそ、株式会社なのです。利益のためではありません。

 とはいえ、落胆はしません。
 独研を創立して間がない頃、テロ対策の仕事で高知県警本部を訪ね、珍しくフライトまですこしだけ時間があったから、県警本部の隣の高知城を散策しました。
 そのとき、たまたま坂本龍馬の「亀山社中」をめぐる展示が城内にありました。
 龍馬さんは、いかなる殿様の援助も受けないために、日本初の会社として亀山社中をつくり、それを拠点に日本国の回天を目指しました。

 ああ、ぼくらの志は間違っていない。

 偶然にその展示を見て、そう実感し、土佐の青い空を仰ぎました。
 おとといも、きのうも、パリの空は天気予報を楽しく裏切って、青かったです。



【フランス】

▽パリのカフェで、これからの仕事の打ち合わせ。





▽ノルマンディ地方ジヴェルニーで、クロード・モネの旧宅に陽が差しています。





【富士スピードウェイ】

▽ヘルメットの内側に着ける防火マスクを被り、レースへ集中力を高めていく。





▼うん、眼こそ力だ。





▽自分に問いかける。「いかに走るか」そして「いかに生きるか」。





▽乗り込む。よっしゃあ、いくぜ、この野郎。





▽エンジンをテストする。非力・パワーレスなりに、マシーンを活かしたい。マシーンが身体の一部のような感もある。





▽世界きっての高速サーキット、富士スピードウェイの名物コーナーを駆ける。難しい。よれよれなりに、諦めない。



  • 前の記事へ
  • 記事の一覧へ
  • 次の記事へ
  • ページのトップへ
  • ページのトップへ