On the road~青山繁晴の道すがらエッセイ~

2011-07-17 02:49:52

たまには、こんな書き込みも、ありのままに。

▼パリ時間7月16日土曜の午後2時50分ごろ(日本時間午後9時50分ごろ)、シャルル・ドゴール空港の搭乗口で、英国エディンバラ行きのエール・フランス機を待つ。

 その時刻に搭乗開始のはずが、いとも簡単に遅れる。そのまま、ずるずると搭乗時刻が何度も遅れて、変わっていく。
 日本以外の国では、とにかく何もかも簡単に遅れる。
 もっとも日本でも、たとえば羽田空港はいつも離着陸の飛行機で満杯だから、よく遅れるようになった。
 しかし、いやいや、まだまだ次元が違う。

 海外でのフライトの遅れは慣れっこだけど、こういう風に、まるで遅れるのが当然のことのような、だらしない雰囲気のときは、ちょっとした嫌なことが偶然に起きることがなぜか多いんだよなぁ…と、こころの隅で思いながら座っていたら、きちんとスーツを着た黒人男性に巨大な鞄をガシンとぶつけられ、仕事をしていたモバイルパソコンの角が傷ついた。

 ま、どうってことはないんだけど、かなり気に入っている臙脂(えんじ)色の美しい天板がすこし剥がれたので、一応、彼に「ね、あなたの鞄がぶつかって、こうなりましたよ」と(英語で)言った。
 彼は「フランス語しか分からない」という意味のことを、フランス語で言うので、早口の英語で「あなたは英語は全く分からないと、そう言いたいのですか?」と聞くと、うんうん、そうなんだというふうに大急ぎで頷く。

 なんだ、英語、わかってんじゃんか。嘘つき。

 小さい傷だし、ほんとに悪気はないだろうから、弁償してくれとまで言うつもりはない。
 だから「あなたに悪気はないし、どうしようもないから、いいですけどね」と、ゆっくり英語で言って、終わりにする。


▼そしてようやく搭乗が始まると、白人の乗客はすべて何も聞かないで(つまりEUの域内国の旅客か、域外国の旅客かも何も確認しないで)通していた、きつい目つきのおばさま係員が、ぼくのパスポートを手に取り、ねちっこくページをめくってから「エディンバラが最終目的地か」とか、英語であれこれ聞く。延々と聞く。
 また、これか。
 人種差別の形を取らない、肌の色による偏見は確実に、ある。
 それも東京・パリ間とか、日本人の多いフライトの搭乗口ではまず起きないけど、こういうパリ・エディンバラ間とか日本人客の少ないフライトの搭乗口では、よくある。
 ぼくは「何か問題があるのか」と、かなりきつい口調の英語で聞いた。そうしないと、このおばさまはいつだって、彼らの言う「黄色人種」が来ると、こうするだろうと思ったからだ。
 乗客をいざとなれば乗せない権力を持つ、このおばさまは「問題はないわよ。ただ聞いているだけ」と、居丈高に言う。
 おお、権力をかさに喧嘩を売るなら、買いましょう。
 ぼくは、おばさまの目を覗き込んで「質問にはすべて正確に、フェアに答えた」と言い、パスポートを取り返した。
 おばさまは目を逸らした。では、さようなら。

 こういう時に、日本のひとが、どぎまぎしている光景を、たまに見る。
 よけいなアドバイスをするとすれば、もしも英語をあまり話さない場合は、思い切り日本語で言いたいことを主張してください。
 相手が母国語で、こちらが母国語で、なんでいけないか。
 堂々と母国語同士で言いあえば、相手は、わりとすぐに諦める。
 日本人でそれをやっている人は、ただの一度も見たことがないけど、諸国の人はそれをやる。
 そしていつも、すぐやり合いは終わる。
 言葉のからきし通じない相手と延々やっている暇は、どの人にも、ふつうはないから。

 海外に出る日本のかたには、できれば堂々としていてほしいと、本音を言えば、そう思う。
 日本国民は、強い者には弱いと、旅先で思われていることが、あとに続く旅行者に影響している面もあるから。

 そもそも、われら日本人の肌の色を「黄色人種」と日本の学校で教えていることが、ほんとうはおかしいと考える。
 ぼくらの肌の色は黄色じゃない。
 ぼくは黄色も大好きな色だけど、しかし黄色って、こんな柔らかい色じゃないでしょう?
 日本人の肌の色は、ナチュラルな淡いベージュに近いか、人によっては、ほどよい白さとも言うべき色であって、それを簡単に黄色というのは、白人の人類学に寄りかかりすぎじゃないだろうか。


▼搭乗口を過ぎて、コンクリートの地面に降りる。
 ヨーロッパではエディンバラに行くような、ちっこい飛行機に乗るときは、こうやって昔ながらに歩いて飛行機に乗る。
 このごろ、こういう時に、列を乱すのは中国のひとが少なくない。
 きょうも、眼鏡をかけた中国のお母さんが、娘の手を引いて中国語で何かを大声で言いながら、列に割り込んできて、白人に肩をぶつけるようにして先に乗り込む。


▼ちいさな古いジェット機に乗り込んで、思う。
 福島原子力災害で、技術力の高さについても自信をなくしかねない、ぼくら日本国民は、世界でいちばん時間に正確で、嘘をつくことそのものがよくないと考え、つまり上手な嘘をつくことがいちばんだと考える世界の大勢とは違い、世界でもっとも豊かな言葉の一つである日本語を駆使し、なめらかな自然の色の肌を持ち、マナーを乱して他人に迷惑をかけることをしない。

 素晴らしいよね。

 そして専門家の端くれとして申したい。
 福島原子力災害があってなお、日本の技術力は世界の至宝だから、われら日本国民、これからこそ世界にぐんぐん羽ばたきましょう。


▼と、ここまで書いたら、もう着陸態勢だ。
 スコットランドの田園が眼下に広がっている。
 パリの空の玄関シャルル・ドゴール空港も、まずは田園地帯に降下していくけれど、フランスのおおらかな美しい田園と、このスコットランドはまた違う古風な美しさを持っている。
 さぁ、モバイルパソコンのスイッチを切って、スコットランド王国の誇り高き首都へ、ぼくも胸を張って降り立とう。





※…無事に降り立ち、タクシーでホテルへ。そしていつものように、部屋でまずはパソコンをネットに繋ぐと、いきなり以下のような書き込みがありました。
「大阪府民」という匿名(ハンドルネーム)のかたが、こう書かれています。

~ここから引用~
本日放送のテレビ大阪「たかじんNOマネー」において、
司会者のたかじん氏が「大阪の兵隊は弱い」との発言をし、
「それは有名な話」と青山氏が発言をしたように聞こえました。
もし青山氏の発言ではなく、
私の聞き間違いであれば大変申し訳ありません。
~ここまで引用~

 いったい何のことでしょうか。
 ぼくは決して、このようなことを申しませぬ。
 日本兵は、世界でもっとも強かった。それは公平な事実であり、大阪も東京もへったくれもありません。
 ぼくは常々、「日本やドイツは戦争が強かったから外交が苦手であり、中国やフランスは戦争が弱いから、外交がしたたかになる」と書物でも講演でも申しています。

 聞き間違いであれば申し訳ない、と書かれているけど、がっくりしました。
 どうして、こういう思い込みに満ちた書き込みが、いつもいつも来るのかなぁ。

 決めつけをなさる前に、決めつけて非難したり講釈される前に、せめて、すこしでもぼくのふだんの主張を調べていただきたいと願います。
 いまはネットもあるのですから。

 ぼくの発言では全くないことを、ぼくの発言であると決めつけなさってから、「もし聞き違いなら」とおっしゃっても、さほど意味はありません。
 ひとを破廉恥罪(はれんちざい)の犯人と間違えて殴りつけてから、「もしも犯人でないのなら大変申し訳ない」と、おっしゃっているのと同じです。
 祖国の先達(せんだち)のかたがたを不当に貶めたと誤認されたのは、ぼくにとっては、生き方そのものにも関わることです。
 久しぶりのスコットランドの第1日が、こうして始まるのは、ちと哀しいですね。

 この書き込みで、スコットランドの写真を添えようと思っていましたが、正直、そんな気分になれませんから、次の機会にします。




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