On the road~青山繁晴の道すがらエッセイ~

2011-09-13 06:20:07

日々を、ちょい点描



▼きのう午後、たまたま空いたわずかな時間に、独研(独立総合研究所)近くの鍼(はり)治療院に行った。
 ぼくの身体をよく知る、ちょっと天才的な若い鍼師が「癌だという診断を受けられたそうですね」と言う。

 驚いて、「えっ? それは今年1月の話で、2月にもう大腸癌の手術を受けましたよ」と答えた。
 そんなに長い間、この信頼する鍼師の施術を受けていなかったのか、とびっくりしたのだった。
 忙しい、という言葉があるけど、そんな言葉では表現できないほどになっていることを、実感した。

 大腸癌そのものはごく初期で心配は要らないこと、術後の本格的な検査を受けたばかりだけれど何の異常・転移もなかったこと、術後の詳しい検査結果によると大腸癌はⅠ期の、その前という極めて初期の状態だったから執刀医は「今後も転移の心配はありません」と言っていること、しかし大腸癌の前後に、尿管結石、重症肺炎、腸閉塞を経験し、肺炎と腸閉塞では死の一歩、いや半歩手前まで行きつつ講演のドタキャンはせずに遂行したこと…などを手短に話した。
 鍼師は、そう驚く様子もなかった。ぼくの身体も、生きる姿勢もよく分かっているということなのだろう。


▼1時間ほどの施術のなかで、前半の終わり頃に、もう何か、晴れ晴れしてくるような効果を感じた。
 しかし施術が終わると、鍼師は言った。
「身体が張りを失っていますね。ツボというツボが、元気ない」
 このごろ、言葉にできないような疲れを感じてはいたけど、身体は依然、水を弾いてつやつやしてるなぁと、たとえばトレーニング・ジムの風呂場では感じていたから、ちょっと、がっかりした。


▼夜、福島原子力災害をめぐってBBC(イギリス国営放送)のドキュメンタリー制作チームのディレクターから取材を受けたあと、深夜に、青山千春博士と話すと、彼女もこの鍼師の施術を、たまたま夕刻に受けたそうだ。
 ぼくの4時間ぐらい後だ。

 そして、鍼師は「青山繁晴さんの身体は、手術にびっくりした状態がまだ続いていて、細胞がふつうの人と同じレベルになってしまっています。それでも、今まで通り超人的に動いているから、とても疲れやすくなっている」と話したそうだ。

 ぼくは「じゃ、ふだんは、ふつうの細胞じゃないわけ?」と笑いながら聞くと、青山千春博士は真顔で「そう言っていたよ」。
 ふーん。
 ま、いずれにしても、癌の手術後の休息がやはり足りない、ということなのだろう。

 しかし休むわけにいかない。
 ふひ。

 忙しさにかまけて、いろいろな方々に不義理をしているようで、それがいちばん、気になる。
 仮眠のとき、短い夢をみると、大体はそのことが出てくる。
 ふひ。


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