On the road~青山繁晴の道すがらエッセイ~

2012-12-04 23:28:47

サンフランシスコへ向かう前に

*日々の点描 オン・ボード その1

【西暦2012年/平成24年/わたしたちの大切なオリジナル・カレンダー皇紀2672年12月2日・日曜】

▼気がつけば、未明3時過ぎ。仕事の電子メールに最低限の返答をしているだけで、もう、魔物の時間だ。
 いつの間にか仕事の範囲が想像を超えて広がっているから、国内と海外からやって来る、お仕事メールはジグソーパズルのようだ。なんとなく宮沢賢治の「注文の多い料理店」を思い出す。
 もちろん、「注文の多い料理店」の中身は関係ない。タイトルからの連想だけ。

 小学校の低学年から高校を卒業するまで、日本と世界の童話という童話を読み漁った。
 中学の頃、童話には大きく分けて、ヒューマンなものと、幻想の世界のものと、ふたつあると考え、「両方とも好きだけど、ぼくはヒューマンな作品の方がもっと好きだなぁ」と思った。
 ところが、宮沢賢治の作品群だけは読めば読むほど、幻想的で、テーマが良く分からない作品のほうが、好きになった。その代表のひとつが、「注文の多い料理店」だった。今でも、山猫がドアの小窓から覗いている挿絵をありありと思い出す。

 メールへの回答だけで時間が過ぎるのはちと、がっかり。ぼくは、もっと書きたい。メールへの返答は欠かせないから、もっと集中力を高めるしかないなぁ。


▼うとうとと、少し仮眠すると、もう朝。
 独研(独立総合研究所)総務部の秘書室第2課(同行担当)の YO 秘書がやって来る。
 独研は、週末には社員を休ませる方針だから、ふだんの日曜出張は、取締役の青山千春博士(自然科学部長)が同行する。
 だけど今週は、サンフランシスコで例年通りに開かれる、世界最大の資源・地球科学をめぐる学会のAGU(American Geophysics Union/地球物理学連合)が迫っているから、青山千春博士は独研・自然科学部長として論文の仕上げに忙しく、とても同行は無理。
 そこでYO秘書の出番になった。彼女はもう事前に、振替休日をとっている。

 ロータス・エリーゼを運転し、Y秘書と品川駅へ。
 新幹線で京都へ。
 車中は、ぼくもY秘書も品川で買った駅弁を楽しんで食べてから、、仕事、仕事。
 ことしのAGUでは、独研は、ぼくも含めて3人が発表する。ぼくは英語で口頭発表をする。だから準備を急ぎたいけど、まずは、出発前に次から次へと講演をこなさねば。
 京都からタクシーで滋賀県の高島市へ向かう。

 懐かしい琵琶湖の水面(みなも)が穏やかで、山の紅葉も美しい。
 共同通信の京都支局時代に、よく琵琶湖に来た。
 共同通信の夏の保養所に両親を招待したら、母は「暑くて寝られない」と文句を言いつつ笑っていた。繊維会社の社長だった父は、「まぁ、こんなもんだろう」と言って、さっさと寝息を立てていた。
 母は、現在はぼくたちが介護し、たった今は入院中だ。父は、現役の社長のまま、医療ミスで急逝した。
 ぼくの心身を強く生んで、育ててくれた父と母。顧みても、顧みても、父を喪ったことを心の底で諦めきれない。

 次第に高島市が近づいてきた。
(続く)
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