▼暮夜、機械の音に慰められることがあります。
　機械ですら、こんなに昼夜分かたず頑張ってくれるのだから、と。
　換気扇の音であったり、エアコンの音、冷蔵庫の音。
　みんな黙々と、自分を主張せずに、ただひたすら任務を果たしてくれています。

　その機械の背後には、人間がいて、にんげんの努力でこそ優れた機械がつくられ、機械が壊れたときもにんげんが直してくれるのですね。
　しみじみと分かっています。
　ただ、機械音に慰められるようなときは、人間さまの振る舞いに内心の深くで参っている心境のときなので、背後にいらっしゃる人間のことを、せめてしばらくは、あまり考えたくないのです。

▼こういうとき、不肖ぼくの場合は、身内は慰めになりません。
　慰めにならないというか、したくないと言うべきでしょうね。
　身近に愛するひとびとは、ぼくが護るものです。
　ぼくを癒やすために居てもらうのではありません。すべて護ります。
　一緒に暮らしていたワンコの繁子も、ほんとうは癒やされるという感じを持ったことはありません。弱き者だった繁子、ちいさな繁子をぼくなりに護っていました。天が違うところへ連れて行くまで。

　身内に慰められるということは、少年の頃からしたくなかったです。
　中学入試に合格して、家の玄関で白いエプロン姿の母に抱きしめられて、子供心にほっとしたときが、最後だったと思います。
　そこからむしろ、ほんとうの自立が始まったという明瞭な記憶が、ぼくのささやかな精神のなかにあります。
　いま思えば、そのエプロンのちょっと冷やっこいからむしろ気持ちよかった感覚も、ほんとうは慰められたということではないですね。合格したのですから。
　親をがっかりさせないでホッとしたという感じです。

▼最近の独立講演会で「自分はひどく落ち込むことがあります。青山さんは、落ち込んだときはどうするのですか」という趣旨の質問に答えたことがあります。
「動物は(正確に言えば戦う野獣は)、深く傷ついたとき、洞窟の中に籠もって蹲(うずくま)り、自然に自力で癒やされ、力が戻ってくるのをじっと待つという姿を、子どもの頃に本で読みました。以来、ぼくもこゝろの中でそのようにしています」という趣旨を、この言葉の通りではないけど、答えました。
　機械の音に慰められる夜というのは、洞窟なき洞窟の中に居るようなものです。

▼ぼくがいちばん落ち込む、人間の振る舞いというのは何か。
　あまりのミーイズムというか、ご自分では気づいていない自分中心主義、それだけなら当たり前なのでがっかりしたりはしないのですが、そのために記憶のとんでもない修正が起きて、どれだけ無茶を仰っていることに気づかない人に接したときです。
　たとえば暴力団の一員であったり、浅はかな中傷誹謗をしていたりする人よりも、むしろ社会的地位の高い立派な人に、たまに、居ます。
　ある文書を、私が主要な部分を書いたに等しいと繰り返しぼくに仰ってくる人も居ます。
　ぼくの秘書さんや、同志議員は、ぼくがぎりぎり時間を作り出して書いたことを良く知っているわけですし、その提言の中のまさしく主要な部分は、さまざまな講演会でぼくが長年、つまりずいぶんと前から明確に申しあげてきたことばかりで、その人の主張などまったく存じあげなかったわけですが、こういう人に事実関係を指摘しても無駄です。よけいに昂奮なさるだけです。
　かつて「ぼくらの祖国」をゴーストライターが書いたとネットで繰り返し主張している、これは匿名の人がいました。
「ぼくらの祖国」は、ぼくの生命とも言うべき根幹の書ですし、これも執筆時間の捻り出しに苦労してぼくが書いたことを身近に知っている担当編集者、現・扶桑社編集局長の田中亨さんは、涙ぐんで悔しがり、怒っていました。告発も検討が成されています。
　一方で、これはもう、ネット時代の病そのものであって、どうやってもこんなのは出てきます。社会的影響も、一定の悪影響はあるでしょうが、社会から何かの権限を付与されているわけではありません。
　ところが前述のような社会的地位の高い人だと、重大な権限を持つことがあるのです。
　これはネットとは関係ありません。
　もっと深い、人間の心の闇です。
　だれかを特に非難するのではありませぬ。ぼく自身も含めたすべての人間の浅ましさです。
　これに比べれば、戦う野獣や、じっと黙して働く機械は、どれほど天に沿っているでしょうか。
　にんげんを愛し抜くのが、不肖ながらのぼくの生き方です。
　それだけに醜さに毎日のように直面しすぎると、暮夜、機械の立てる音に慰められるわけです。ふはは。これは、ほんとうは、人間が醜いと言うよりも、ぼくの弱さですね。
　ただし夜だけです。
　朝になって光を浴びれば、もうそんなことは完全に忘れて、ただ働きます。
 

▼独立講演会は、ぼくがこゝろの疲れを感じながら任務を辛うじて果たせるために、なぜ、もっとも大切な場なのか。
　ぼくが、機械音じゃなく、にんげんに励まされる場だからです。
　ぼくは、ひとさまを護ることが、生きる理由です。
　みんなの眼を見て対話するとき、ごくごくささやながら、非力ながら、みんなのなかに新しい力が湧くのを感じるときがあります。
　あれほど、勇気づけられることはありませぬ。
 

　きょうの正午から募集が始まるはずです。予告はここです。
　募集が始まったら、この地味ブログも更新します。

▼そして、ぼくは最初も最後も、ひとりの物書きです。
　たとえば中国のたった今の振る舞いに対しても、国会議員として、護る会 ( 日本の尊厳と国益を護る会 / JDI ) の代表幹事として、あくまでもフェアに対峙していきますが、根幹は、著作を通じて向かいあいます。
　そのために新書を2冊出します。予約はこことここです。

　すべて全身全霊をもって、臨んでいます。
　そして旅の最期に絶壁に立ち、報われざる日々を背後に置いて、ただただ茫漠たる荒野を眺めます。
　荒野には、一筋の太い光があります。
　その光の中にいずれ、この一身を委ねるでしょう。

　その刻まで、わずかな時間だけのことです。
　最期は、天がすべてを引き取ります。龍馬さんや晋作さんが、そうだったように。