2007-09-13 08:31:36
耐え続ける、みんなと一緒に耐えつづける
▼きのう安倍さんの辞任会見をみていて、耐え続けることの、たいせつさを思った。
一度、ひとに誓ったら、一度、理念を掲げたら、一度、責任を担ったら、命は天に預けて、成否も天に預けて、おのれは、どこまでも耐え続けたい。
世の生活者はみな、それぞれの、それぞれなりの重荷に耐え、そのなかで生きる歓びを見いだしていくのだから。
▼宰相の辞任をめぐる真実を把握するのも、ぼくの務めの一つだ。
辞任会見の最中も、安倍さんにごく近い政治家、官僚たちや、現職の閣僚、与党の幹部たち、あるいは反安倍の政治家や官僚、与党幹部、さらには「いつでも何でも知っている」といわれる公安関係者に至るまで、携帯電話を使って、話を聴き、情報を集めつつ、ぼくは胸のなかでふと、耐え続ける、耐えて耐えて耐え遂げる、そのたいせつさを思った。
耐えることを辞めた安倍さんを、とやかくは言わない。
人それぞれの生き方があり、宰相といえどもひとりの人間であり、また、去る者の背に悪罵を投げつけないのは、わたしたちの尊い文化の一つだと思うから。
しかし、ささやかな、おのれの生き方としては、命を天にお返しする、その瞬間まで耐え遂げたいと、いま思う。
▼9月12日水曜の午後は、大阪の定宿ホテルにいた。
いつもの関西テレビの報道番組『ANCHOR』のレギュラー・コーナー『青山のニュースDEズバリ』を準備していた。
今週は、安倍さんがシドニーの記者会見で「給油継続に職を賭ける」と発言したことを取りあげ、その発言は間違いだと述べることにしていた。
なぜ間違いか。
安倍さんは実は、この発言を、中曽根康弘・元首相と相談のうえ、事前に用意して、おこなった。
国内インテリジェンスなどによれば、中曽根さんが「日米同盟は、日本の生命線であり、インド洋上の海上自衛隊の給油を、内閣を賭して、守るべきだ。給油の一時中断も、いけない。小沢君は、権力ほしさに日米同盟を壊そうとしている。安倍君は、職を賭すことによって、身をもって、アメリカに、日本政府がここまで同盟関係を大切にしているというメッセージを送れ」という趣旨でアドバイスし、安倍さんは、これを受け入れたという。
ぼくも、日米同盟が日本の生命線の一つであることは同意する。
しかし中曽根さんの考えには同意しない。
日米同盟だけが生命線ではない。あくまでも一つであり、そこがいちばん大切なのだ。
アメリカが北朝鮮と急接近し、テロ支援国家の指定解除から、朝鮮戦争の終結、米朝国交正常化へ進んでいく。
これを大きな眼でみれば、このアジアでもついに冷戦が終わることを意味する。
ヨーロッパの冷戦は、実に20年近くも前に終わった。
1989年にベルリンの壁が壊され、90年に東西ドイツが統一し、91年にはソ連邦が崩壊した。
ところが、アジアでは中国という共産党独裁国家、北朝鮮という共産主義テロ国家が温存され、朝鮮半島の南北の分断はむしろ固定化されている。
そのアジアでも、いよいよ冷戦が終わるから、これまでの仲良しグループが解体され、アメリカが北朝鮮と組んで、北朝鮮を属国と見なしてきた中国に、その喉元から中長期的に圧力をかけるようなことが、起きつつあるのだ。
日米同盟だけが、それだけが日本の生命線だという発想は、この潮流に気づかないことであり、日本国だけが、もはやありもしない冷戦構造の中に取り残される、いや、みずからを取り残すことに、つながっていくだろう。
そして日本国民は、安倍さんの真意をやがて知るにつれ、「なんだ、アメリカが絡めば、たかが給油するかしないかだけで、日本の総理大臣の首がかかってしまうのか」と多くのひとが考え、日米同盟を嫌悪し、同盟の弱体化にむしろ、つながるだろう。
だから、中曽根さんのアドバイスは、間違っており、それを真に受けた安倍さんの「給油を中断させないことに、職を賭す」とした発言も間違っている。
また、安倍さんが職を賭してでも護るべきなのは、拉致問題をめぐる北朝鮮との交渉のなかで、「過去の清算」について間違った清算をさせない、その姿勢だ。
すなわち戦後の南北の分断まで日本のせいにして、日本国民の税から「戦後補償」なるものをさせないこと、誘拐されたままの有本恵子ちゃんや横田めぐみちゃんと、戦中の慰安婦とを同列視させないことだ。
▼そのような解説をする準備に集中し、テレビはつけてはいたが、集中するために音声は消していた。
そこへ関テレ報道局のディレクターから「青山さん、ニュース速報を見ましたか」と電話がかかってきた。
見ていない、と答えるとほぼ同時に、モバイル・パソコンに電子メールが届いた。
安倍さんの最側近と言うべき政治家から「茫然自失だ」というメールが届いた。
そのあとは、準備していた内容はすべて棄てて、辞任表明の真相を探ることに切り替えて、携帯電話とメールのやり取りに、集中した。
すると関テレから、独立総合研究所の秘書室長を通じて連絡があり、ふだん4時55分から始まる『ANCHOR』は、ネット局のフジテレビの『スーパーニュース』の特番に取って代わられて放送中止、6時17分からのローカル放送部分だけがいつも通りに放送されるから、そこに出演してほしいと要請された。
それを了承して、ローカル部分だろうが何だろうが関係ない、視てくれるひとがいる以上は、最高の情報を集めようと、携帯電話とメールの嵐に戻り、そのなかで、独立総研から配信している『東京コンフィデンシャル・レポート』の会員への責任を果たすために、速報レポートを次々に完成させて、独研へ送り、独研の総務部から全国の会員へ、配信されていった。
このレポートが無事に配信されていると、ぼくは胸のなかが落ち着き、仕事全般にいい影響が出る。
レポートの会員は、会費を負担していただいて、つまり血を出してでもぼくを支えてくださるひとびとだ。
▼生放送に備えて、関テレの局に入ってからも、情報収集とレポート執筆は続き、報道局のど真ん中にいるぼくの携帯電話に、現職閣僚から電話がかかり、総裁選にどう臨むかを話しあったり、あるいは総理の執務室、その間近にいるひとから電話がかかり、「健康問題を辞任の理由にするのは、嘘だ」という明言があったり、なんだか凄まじい状況だった。
しかし助かったのは、関西テレビの報道局のひとびとには礼節があることだ。
ぼくが携帯電話を手で覆って話し始めると、聞き耳を立てるのではなく、すっと席を立って、遠ざかってくれた。
▼生放送に入り、ぼくは冒頭、岡安キャスターから「まずは第一報で何を思いましたか」と問われ、「安倍総理がほんとうは、このごろ中曽根さんと頻繁に電話で進退をめぐって話しあっていて、それは知っていたから、不穏なものは感じていました。しかし、まさか、このタイミングとは思いませんでした。所信表明演説を行った総理が、その演説に対する代表質問の直前に辞めることなど、あり得ないことですから。だから、中曽根さんのアドバイスにとどまらず、よほどの異常なことがあったと考えました」と答えた。
そのあと、その「よほどの異常なこと」の中身について、話していった。
その中身は、ぼくの放送を文字などでアップしてくださる大変な努力を重ねているひとびとがいらっしゃるので、それにお任せします。
残念ながら、このブログをこれ以上書いている時間が、もはや1分もありません。
放送をいつも無償の努力として起こしてくださる、みなさんをはじめ、みんなみんな、ほんとうにありがとう。
ぼくはきっと、耐えきってみせます。
あおやま しげはる 2007年9月13日木曜 早朝 東京の自宅にて
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