On the road~青山繁晴の道すがらエッセイ~

2013-03-17 11:49:15

人生の悦楽



▼午前11時ごろに成田を飛び立って、スイスのチューリヒに着いたのが、日本時間で言えば、深夜零時ごろ。
 13時間たっぷりと、狭い機内の座席に閉じ込められたまま、一睡もせずに、小説新作の仕上げを続けた。

 チューリヒに着くと、レンタカーを借りて、渋滞した市内をそろーりと抜けて、高速道路へ。
 あとは疾駆する。
 いずれも今回、初めて、走る。
 レンタカーを前に借りたひとがロシア人だったらしく、ナビが何と、ロシア語。
 同行している、独研(独立総合研究所)の若手研究員が懸命に言語を設定し直して、みごと、成功。えらい!


▼ご存じのかたもいらっしゃるとおり、ぼくはレーシング・ドライバーでもあるから、肉体的に厳しい条件のドライビングは慣れているので、眠気などはまったく感じない。
 チューリヒからどんどん走り続けて、愉しかった。
 途中、アルプスの雪の山並みや、いくつかの湖も、目を見張るように美しい。

 今回はボルボを借りたけど、この頃のボルボはますます絶品だなぁ。
 以前にスウェーデンの原発へ、テロ対策の調査に行ったとき、白夜のなかを、ひたすらボルボのレンタカーで走り続けた。そのときも高性能だったけど、実は、繊細なレベルで言えば直進安定性に大きな問題を感じた。
 それが、素晴らしい次元で、すっかり解消されている。
 むしろBMWやメルセデスよりも、直進安定性が上になっている感すらある。個体差があるので、いちがいには申せませぬが。
 そして、ステアリングがまるで家具のような独特の味わいで手にすっとなじむ感覚、アクセルレスポンスの鋭さ、いや、おもしろい。

 ヨーロッパ人の車づくりは、このボルボに限らず、BMWもアウディも、そのほかも、ますます熟してきた感が強い。
 うーむ。
 本音はたとえ1年でも、ヨーロッパのどこかに棲んで、サーキット参戦とアルペン・スキーと、執筆だけで暮らしてみたい。

 わが祖国の現況は、そんなことをしている場合じゃないので、もちろん日本を決して離れません。
 今回もあっという間に、帰国するけど、ほんとうのぼくは遊び大好きなので、ヨーロッパ人の車づくりにある、隠し味のような抑えた遊び心も好きだ。


▼スイスは、民間防衛の先進国だ。
 そのために、日本の国民保護法の施行に関連して、何度もこのスイスに入っているけど、今回のように1月に続いてすぐに再訪したことはないし、そもそも、こんな極端な強行日程はさすがに、かつてはなかった。
 いま、スイス時間で午前4時を回った。
 同行の研究員も、短い仮眠のあと、同じ部屋で懸命に、報告書の仕上げを急いでいる。


▼と言うかですね、この研究員が数時間まえに、ホテルの同室で仮眠していて突如、「社長! もう朝の6時半を過ぎました! たいへんです」と叫んだ。
 同じく仮眠していたぼくも、びっくり。
 7時半には、出発せねばならない。さすがに疲れて荷物の整理も何もせずに倒れ込んだまま、ふたりとも仮眠していたから、準備はギリギリになる。

 ぼくは、そう考えつつ、実はいつでも楽観的なので(本職のひとつは危機管理でありますが、おのれの危機管理はしないのでアリマス)、「まだ間に合う」とベッドに居ると、研究員はさっさとシャワーに入っている。
 でも、彼はすぐに出てくるだろう。
 ぼくは、朝風呂に入って血をめぐらせないと躯が動かないタイプなので、さぁ、起きて短時間でも湯に浸かろうと体を無理に起こして腕時計を見ると、午後11時まえ。

 あれ?

 その時計は、GPSの衛星情報を受信して、現地時刻になるから、これがスイス時間のはずだ。
 優秀な彼がなんと、日本時間と間違えたのだ。

 ふはは。
 ということはね~、出発まであと、何時間もあるじゃん。
 仕事もできる、朝風呂も入れる。
 こりゃ、うれしい。

 研究員の、彼にしてはまことに珍しい思い違いがなければ、下手をすると、ふたりともそのまま寝こけてしまって、仕事もできず、準備もできなかったかもしれない。
 思い違い、さまさま。
 こういう誤算がね、人生の悦楽なのです。





*ところで写真は、まったく関係のない繁子です。
 繁子の手が届かない海外へ出ると、よけいに、もっともっと大切にしてやらないと、と思う。
 だからアップしちゃいます。

 国内でスイスのように美しい自然のあるところへ、これも無茶日程ではあったけど、繁子を散歩に連れて行ったときですね。
 ほんとう、嬉しそうな顔をしています。
 ぼくと一緒の写真では、耳がなくなっちゃってます。


 

     
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